小結大栄翔(29=追手風)が、ついに単独トップに立った。明生を突き出して11勝2敗。10日目終了時点では、トップに2差つけられていたが3連勝し、初日から10連勝後、3連敗した翠富士を逆転した。14日目の翠富士戦に勝ち、3敗の関脇霧馬山と小結若元春が敗れれば、14日目に21年初場所以来、13場所ぶり2度目の優勝が決まる。

迷いはなかった。立ち合いで先に両手をついた大栄翔は突いて出た。1度いなして明生の体勢を崩すと、回り込もうとする相手を逃さず、最後は腹を押して完勝。これで12勝3敗となった合口の良さも手伝い、終始落ち着いて取り切った。「しっかり相手を見て攻めようと思っていた。その考え通りの相撲を取れた。初優勝の時ほど緊張もしていない」。優勝を争う3敗の3人は、全員優勝経験はない。心身充実の大栄翔が、優勝に大きく近づいた。

文字通り、相手を寄せつけない取組が続く。いくら突っ張りを繰り出し続けても、疲労の色を見せないのは「回転の速いてっぽうをやるのと、何番稽古しても突くことを意識している」と、稽古の成果と認識。その前段階として「腕立てをしっかりやる」と、基礎の積み重ね、日々の地道な努力の成果だと強調する。

大栄翔の転機は、埼玉・朝霞市立第四小1年時だった。「朝霞市で相撲大会があると、小学校でプリントが配られた。友だちみんなで『出よう』となって、出たら優勝。相撲道場の人に誘われた」。参加者30人足らずの大会で優勝。「相撲のことは全く知らなかったし太ってもいなかった」。それでも、何かで1番になれたことがうれしかった。

真面目な性格は、相撲との相性が抜群だった。一直線に突き進む、押し相撲のスタイルが確立された。磨きをかけ、21年初場所で大相撲の頂点に立った。今場所も、翠富士が先頭を独走しかけても「しっかりと切り替えられている」と連敗は回避し、慌てず、じっくりと追走。ついに逆転し、2度目の優勝に近づいた。それでも「変わらず、同じ気持ちで取りたい」。優勝経験者ならではの余裕が漂っている。【高田文太】