タイトルは青春時代の美しい記憶を象徴する言葉だという。

周恩来と毛沢東が相次いで亡くなり、文化大革命が終わった76年から始まる中国映画「芳華」(12日公開)は、歴史に翻弄(ほんろう)される青春群像を描いている。

フォン・シャオガン監督と原作・脚本のゲリン・ヤンさんはともに舞台となる「文工団」の出身で、そろって今年60歳。男女双方からの経験に基づいた視点に支えられ、登場人物は皆生き生きとしている。

文工団とは中国人民解放軍に所属し、各地の部隊を慰問したり、党の政策の宣伝を行う歌舞団や劇団のことを言う。文革時代の70年代に全盛期を迎え、芸に秀でたエリート集団だった。

17歳の少女シャオピンがダンスの才能を認められ、入団するシーンから物語は始まる。彼女の父親は文革で一方的に断罪され、職を追われて「労働改造所」に収容されている。肩身は狭く、過酷ないじめにも遭うが、帰るところはない。唯一優しく接してくれるのが模範兵のフォンだ。

映画はこの2人を中心に文工団の隆盛と陰り、中越戦争をはさんで団の解散…そして豊かになったが、格差が広がった90年代までを描く。言ってみれば政治宣伝の道具であり、権力の移ろいに左右される文工団を、出身者のシャオガン監督は正面から見すえ、きれい事では描かない。

芸へのモチベーションは政治とリンクしているわけではないし、禁止されているテレサ・テンの歌をこっそり聞くシーンが挿入され、この歌詞が若者たちの心を動かしたりする。まるでのぞき見のようなアングルで描かれる歌舞団の少女たちの水浴シーンもみずみずしい。さまざまなエピソードには、若者は政治的に無力だが、どんな政治もその輝きのすべては奪えない。そんな普遍の思いが見え隠れする。

いじめやそねみはあってもメンバーの団への愛着は強い。存続の危機や実際に解団となったときにそんな思いがあふれ出る。原作のヤンさんや監督の気持ちが重ねられているのだろう。

苦い史実であろう中越戦争も正面から描かれる。1億円のコストで撮影された6分間の戦闘シーンはすさまじい。草むらからふいに飛んでくる銃弾の恐怖。被弾した兵士の体がはね上げられ、ぐにゃりとなる描写は目を覆う。

曲折を経て前線に立ち、重傷を負う模範兵のフォン。彼を追うように従軍看護師となったシャオピンは前線の凄惨(せいさん)を目の当たりにして心を病んでしまう。

90年代に再会したかつての文工団のメンバーの中には金満夫人や事業に成功した者も。シャオピンやフォンとの対比は正直者は損をする、の図式である。シャオガン監督は心の豊かさという視点で立ち位置をシャオピンやフォンに寄せている。

平和な日本で安穏と年を重ねてきた身としては、同世代の監督やヤンさんの激動の半生に息をのむばかりだ。だからこそ序盤の青春の輝きがより美しく、記憶に残った。

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)