「これ、なんぼ?」「もっと安(やす)ならへん?」。浪速のシンボル・通天閣(大阪市浪速区)から徒歩3分。戦前に建てられた古い長屋が連なる商店街「新世界市場」では毎週日曜になると、客と出店者がかけあって値段を決める全商品に値札のない「マーケット」が開かれます。異色の商店街には遊び心あふれる若者も集まっています。

手作りのアクセサリー店から会話が聞こえてきます。「1800円? もうちょっとまけてえな~」。20代の女性客が値切ると、男性店主は「もう無理やって」と返します。女性客も負けていません。「あ~あ、1500円やったらな~」。笑顔のダメ押しに店主はタジタジです。

全長約130メートルの新世界市場。平日はシャッターを閉じた空き店舗が目立ちますが、今春から日曜日に空き店舗の前に雑貨や食品などの屋台が並ぶ「Wマーケット」が始まりました。テーマは「シャッター街で遊ぼうや!」で、合言葉は「これ、なんぼ?」。半分以上の店がシャッターを下ろしたままの商店街に活気を取り戻そうとする狙いです。日曜限定のフリーマーケットでは家族連れらが雑貨を手に取り、品定めする光景が広がります。

手作りのがまぐちの財布などを扱う「空空商會 朝来」の赤坂奈都子さん(47)は月1回、出店しています。「値札がないので、まず会話からスタートするのが楽しい。何よりもお客さんとの距離感が近いのがいい」。店頭に並ぶがまぐちの布はどれも絵柄が違い、「世界に1つだけの商品」がウリです。会話のキャッチボールで作り手の商品に対する思い入れも伝えることができます。

強敵は、やはり大阪のおばちゃんです。「もっとちょっと安(やす)ならへんの?」の粘りに「まあ、いいか」と根負けすることもあるそうです。商談が成立し、おばちゃんが去った後「値引きしすぎた…。やられた~」。ちょっぴり後悔していると、さきほどのおばちゃんが再び現れ、「ごめんやで~。これ飲み!」と缶コーヒーの差し入れてもらったことも。機微の分かるおばちゃんに「ああ、この人なら大事に使ってくれそう」と赤坂さん。

「おもしろい商店街」の評判はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などで口コミで広がり、大阪のおばちゃんやおっちゃんだけではなく、全国からも観光客が訪れています。

「これなんぼ?」。あわや“消店街”が一転、アーケードに活気が戻りつつあります。

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

フリーマーケットでがま口の財布などを出店する赤坂奈都子さん(撮影・松浦隆司)
フリーマーケットでがま口の財布などを出店する赤坂奈都子さん(撮影・松浦隆司)