ネットニュースの裏側を描いた異色の舞台「フェイク ニュース」が東京・恵比寿のエコー劇場で上演中だ。主演は女優文音(29)。相手役を俳優山下徹大(42)が務めている。

 トランプ米大統領の決まり文句をタイトルにしたユニークな作品について、文音に聞いた。

 「最近、友人との話でもあれホント? はめられたんじゃないの? なんてやりとりが多くなった。ネットが広がった分だけ、疑心暗鬼の部分も広がった。演出家(山本浩貴)の方からお話をうかがったとき、今しかないテーマ。やりたいと思いました」という。

 母親が女優志穂美悦子(62)という環境で育ち「もともとネットニュースは疑ってかかる方」だが、演じているのは面白いネタには仁義もプライドもなく飛びつくネットメディアの記者。別名「ゲスの女王」だ。「主人公はある意味魅力的な女性なんですけど、どんなネタにも飛びつくところには最初は抵抗がありましたね。役に入っていくにはちょっと時間がかかりました」と振り返る。

 一方で、今回の劇団PUーPU-JUICEとは3度目の共演。「今度は座長という立場を気持ちよくサポートしてもらっている。小さい劇場なのに、せまいスペースに5つのセットが組まれた特殊な舞台なんです。複雑な動きができるのも気の合った仲間に支えられているからという実感があります」

 「ゲスの女王」が周囲の人とのふれあいを通して真実追究に目覚めるストーリー展開が、そんな彼女の心境に重なる。

 「フェイク ニュース」はトランプ大統領の度重なるコメントから改めて注目されるようになったフレーズだ。実は、文音自身13年にニューヨーク・フィルム・アカデミーに留学した経験がある。

 「最初は感情表現の振れ幅の大きさについて行けなかったし、すぐに競争にさらされて白人優先の人選も実感しました。でも1年経った頃、先生から大きな役をもらって、自分でも驚くほど感情が発露できました。あのときは本当にうれしかった」という。

 帰国後は「忖度(そんたく)」で動く日本社会に逆になじめなかった。

 「逆カルチャー・ショックみたいなもので、最近ですよ。溶け込めるようになったのは。だから、今回も劇団の皆さんとの共同作業がとっても楽しい」

 ようやく軌道に乗った日本の芸能活動でも怖いことがあるという。

 「母(志穂美)が滑舌にとってもうるさいんです。かむとすごく怒られる。この舞台も見に来ると言っているので今からドキドキしています」

 上演は26日まで。

 

 ◆文音(あやね) 本名・長渕文音。1988年(昭63)3月17日、東京生まれ。12年、明治学院大卒。13年、ニューヨーク・フィルム・アカデミー卒業。4歳からクラシックバレエを学び、08年、映画「三本木農業高校・馬術部」で女優デビュー。来年春には、草笛光子とダブル主演の映画「ばあちゃんロード」の公開が控えている。