映画記者だが、音楽を聴く。取材中、執筆中以外は、もう食事中も、寝起きする時も、取材現場への移動中も、ほぼ何かしら音楽を聴いている。子供の頃、習ったピアノは、ものにはならなかったけれど…音感が養われたのか、中学生時代にNHK合唱コンクールの地区大会くらいまでは出たことがある。

CDもよく買う。今年、買った中で最も印象的な1枚は、予約し損ねて慌てて買った、大滝詠一さんの名盤「ロング・バケイション(ロンバケ)」発売40年を記念した「A LONG VACATION 40th Anniversary VOX」だ。中でも、何度も繰り返し、聴いているのが「君は天然色」。日本語でロックを歌った先駆的な存在として知られるバンド「はっぴいえんど」をともに組んでいた、作詞家の松本隆さんに、大滝さんが作詞を依頼した楽曲だ。

大滝さんが13年12月に急逝した後の、2015年(平27)に開催された、松本さんの作詞活動45周年記念公演「風街レジェンド2015」を取材した。はっぴいえんどが16年ぶりに集結したことが話題となったが、その中で生前、大滝さんが語った言葉が紹介された。

「松本隆の共作者は数多いが、大瀧詠一の共作者は松本隆ただ1人である」

大滝さんは「ロンバケ」は、松本さんの詩ありきだと考えて作詞を依頼したが、松本さんは作詞に取りかかるタイミングで最愛の妹を亡くし、詩が書けなくなってしまった。松本さんが詩が書けるようになるのを大滝さんが待ったこと、松本さんが妹を亡くしたショックから、渋谷の街を歩いていて目の前が白黒になった自身の経験を歌詞にしたのは有名な話だ。一聴したら明るい楽曲に聞こえるが、歌詞の裏には深い悲しみがある。

「君は天然色」をはじめ、大滝さんが主宰するナイアガラ・レーベルから発表した本人名義の全作品が、3月21日から各サブスクリプションサービスで全世界に向けて配信された。その3月21日こそ、1981年(昭56)に「ロンバケ」が、世界初の商業用CD化作品の1つとして発売された日だ。配信開始早々、各サービスで1、2位など上位を獲得するなど反響は大きい。

最近は「ロンバケ」にとどまらず、松本さんが、20年10月に亡くなった作曲家の筒美京平さんと共作した楽曲も聴き始めている。「風街レジェンド2015」のセットリストにも入っていた、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」などなど…毎晩、聴かずにはいられない。

往年の歌謡曲が近年、見直されている。また、ジャパニーズポップスと言われる楽曲が、世界各国で「シティポップ」として支持されている。若い世代にもサブスクリプションなどで、ぜひ聴いて欲しい。そう思う今だからこそ、作詞活動50年を超えた松本さんに、改めてお話を伺いたい。「シティポップ」などと口にしたら、昔から都会的な音楽を作られている、松本さんに叱られるかも知れないけれど…。【村上幸将】