第94回アカデミー賞で4部門にノミネートされた「ドライブ・マイ・カー」が、8日のノミネート発表後、上映する映画館が101館から213館と倍増した上、満席が相次ぎ、週末の12、13日の興行収入が前週比500%と“アカデミー賞特需”に沸いている。

配給のビターズ・エンドは14日、全国115館で封切りした21年8月20日から13日までに、興行収入4億4569万5030円、動員33万3170人を記録したと発表した。

「ドライブ・マイ・カー」は、アカデミー賞で邦画初の作品賞と脚色賞(共同脚本の大江崇允氏も)、監督賞、国際長編映画賞にノミネートされた。濱口竜介監督(43)は発表から一夜明けた9日、発表したコメントの中で「このノミネートがきっかけで俳優陣の素晴らしい演技、そしてそれを支えたスタッフたちの仕事がより多くの観客の目に触れることを願っています」と語っている。今後も上映劇場は更に増える見込みで、同監督の願い通りの、異例のロングランが続いている。

「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹氏(72)が13年11月発売の「文芸春秋」12月号に発表した短編で、同誌14年3月号まで連続で掲載した「女のいない男たち」と題した連作の第1弾。14年の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)に収められており、濱口監督は同作に加え「女のいない男たち」に収録された6編の短編の中から「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影し、脚本を作り上げた。

物語は舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島秀俊)が満ち足りた日々を送る中、脚本家の妻音(霧島れいか)が、ある秘密を残したまま突然この世からいなくなってしまう。その2年後、喪失感を抱えたまま生きる家福は、演劇祭の演出で向かった広島で、寡黙な専属ドライバー渡利みさき(三浦透子)と出会い、1度は拒否するも受け入れ、ともに過ごす中で、それまで目を背けていた、あることに気づかされていく心情を描く。

アカデミー賞で日本人監督が監督賞にノミネートされるのは、66年「砂の女」の勅使河原宏監督、86年「乱」の黒澤明監督以来36年ぶり3人目。邦画が国際長編映画賞にノミネートされるのは、19年の「万引き家族」(是枝裕和監督)以来3年ぶりで、受賞すれば09年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来13年ぶり。アジアの映画が作品賞、監督賞、国際長編映画賞にトリプルでノミネートされるのは、20年に非英語作品として初の作品賞をはじめ監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4冠を獲得した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」以来2年ぶり。

授賞式は3月27日(日本時間28日)に米ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われる。