ボクシング映画の名作「ロッキー」シリーズを継承した「クリード」の第3作「-過去の逆襲」で主演、長編初監督、製作を務めた米俳優マイケル・B・ジョーダン(36)が初来日し、17日に日本のボクシングの殿堂、東京・後楽園ホール、ジャパンプレミアイベントが開かれた。

そのレッドカーペット上に、ひときわ鍛え抜かれた体の若い男性がいた。名門・帝拳ジム所属のミドル級(72・5キロ以下)プロボクサー兼映画監督の、赤井英五郎(28)だと気付くのに、それほど時間はかからなかった。

赤井は、プロデビューから12連続KOの日本タイ記録を持ち、「浪速のロッキー」の異名を持つ元プロボクサーの俳優・赤井英和(63)の長男だ。12歳で米ハワイに留学し、中、高、大学を米国で過ごし、カリフォルニア州のウィッティア大時代に「ほぼ独学で」(赤井)映像製作を学んだ。

並行して、同大学在学中の20歳で「自分の可能性を確かめるため」アマチュアボクシングを始め、18年に全日本社会人選手権ミドル級で優勝。東京オリンピック(五輪)出場を目指すが、19年11月の第89回全日本ボクシング選手権2回戦で敗退し、出場権を逃した。

14戦8勝6敗のアマチュアでの戦績を経てプロデビューも、21年9月11日に後楽園ホールで行われたデビュー戦で、同じくデビュー戦の岡村弥徳(八王子中屋)1回2分24秒、レフェリーストップによるTKO負け。東日本新人王ミドル級予選で敗れるという、ほろ苦いデビューを経た翌22年9月に、父をテーマにしたドキュメンタリー映画「AKAI」を製作、公開し、同作は日本の各地で上映された。

赤井と「クリード」との縁は、「ロッキー」シリーズ主演のシルベスター・スタローン(76)が製作に名を連ねた15年の第1作「-チャンプを継ぐ男」にさかのぼる。アマチュアボクシングの大会でデビューした同年に11月の終わりに、日本で上映されたイベントにゲストスピーカーとして招待された。その際、映画を見て「作品に親近感が湧き、ジョーダンは日本が好きだから、絶対に日本に来る。いずれ、会える日が来る」と思ったという。

「AKAI」を製作したいくつかの理由の1つに「いつか『クリード』の製作に携わりたい」という思いもあった。「AKAI」の劇中には配給のGAGAを通じて、米国の作曲家ビル・コンティのエージェントに「絶対に使わせて欲しい」とダメ元で「ロッキー」シリーズのテーマ音楽「Gonna Fly Now」の使用のオファーをし、無事、使用にこぎ着けた。そこまでこだわった根底にも「クリード」への思いがあったという。

「AKAI」は、米国を中心に海外での上映を目指しており、英語の字幕を付けている。その裏にも「自分の映画を、どうにかしてスタローン、ジョーダンや『クリード』に携わっている方に見て欲しい」という、強い思いがある。そこで「AKAI」配給のGAGAを通じ、「クリード 過去の逆襲」配給のワーナーブラザース映画に打診し、ジョーダンの初来日となったジャパンプレミアに招いてもらい、ついに対面の機会が実現した。

その場に、アニメ好きのジョーダンへのプレゼントとして「ドラゴンボール」の主人公・孫悟空のフィギュアを用意するとともに「AKAI」の本編、トレーラーを、オンラインで視聴できるリンク先をまとめた書面も携えた。赤井は「僕にとって、8年越しで夢がかなったので、ぜひ『AKAI』を見て欲しい」と力を込めた。

一方、プロボクサーとしても正念場の1戦が控えている。第80回東日本新人王トーナメントにミドル級でエントリーしており、7月1日に後楽園ホールで行われる初戦の2回戦(準々決勝)で、鈴木輝(宇都宮金田)と対戦する。東日本新人王は、1回TKO負けした21年9月のデビュー戦は同予選を兼ねていた。翌22年も、9月27日の準決勝で元K-1ファイターの左右田泰臣(EBISU K.s BOX)に1-2の判定負け。今回は、東日本新人王を目指す3度目の挑戦になるとともに、22年7月2日のプロ2戦目でマッチョパパ一基(協栄新宿)に2回TKO勝ちしてプロ初勝利を挙げて以来、1年ぶりの2勝目がかかっている。

赤井は「ボクシングの練習にも励んでいます。ボクサーとしても世界チャンピオンになるための冒険をしていきたい」と力を込めた。映画とボクシング、両方の世界で父・赤井英和がなしえなかった世界の頂点に立つ日まで、赤井英五郎は闘い続ける。その瞳と脳裏の奥には「クリード」で光り輝く、ジョーダンの姿が焼きついているはずだ。【村上幸将】

◆「クリード 過去の逆襲」新時代の王者・アドニス・クリード(ジョーダン)父アポロと死闘を繰り広げた師・ロッキーの指導を受けてボクシング界の頂点を目指し、その魂を引き継ぎ世界チャンピオンとなった。そんな彼の前に、刑務所から出所した幼なじみのデイム(ジョナサン・メジャース)が現れる。2人はかつて家族同然の仲間だったが、デイムはクリードの少年時代の、ある過ちによって18年間の服役を強いられ、復讐(ふくしゅう)心に燃えていた。クリードは、封印してきた自らの過去に決着をつけるべく、デイムとの戦いに向けて猛トレーニングを開始する。

ジョーダンは、15年「-チャンプを継ぐ男」と18年「-炎の宿敵」に続き主演。さらに、今作では自ら長編初監督に加え、製作まで務めた。iMac(アイマック)で撮影された、初のスポーツ映画としても話題を呼んでいる。

◆「AKAI」 80年のプロデビューから12連続KO(試合時間計72分)の日本タイ記録を持つ“浪速のロッキー”赤井英和の人生を描いた、長男英五郎の監督作。赤井は、85年2月の大和田正春戦に7回2分49秒KO負け後、急性硬膜下血腫と脳挫傷で緊急の開頭手術を受け、死線をさまよった。その後、87年に出版した自伝を元に阪本順治監督が脚本を書き、監督を務めた89年の映画「どついたるねん」に主演し俳優デビュー。タレントとして飛躍した。同戦から35年後の20年春、新型コロナウイルスの感染拡大で仕事が全てキャンセルになった赤井に、英五郎がボクシングとの出会いを聞いたインタビューを収録。

製作に当たっては、阪本監督が全面協力し、再起不能のダウンから復活を遂げ主演として自分自身を演じた「どついたるねん」のシーンも収録。朝日放送テレビの映像協力で、赤井がブルース・カリーに挑戦し7回KO負けした、WBC世界スーパーライト級王座戦と、引退の引き金になった大和田正春戦の試合映像、貴重なインタビューも収録された。