世界3大映画祭の1つ、第76回カンヌ映画祭の授賞式が27日(日本時間28日)フランスで行われ、是枝裕和監督(60)の「怪物」の脚本を手がけた、脚本家の坂元裕二氏(56)が初の脚本賞を受賞した。邦画の脚本賞受賞は、20年に邦画で初受賞した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(44)と大江崇允氏(42)以来3年ぶり2度目。

授賞式に出席した是枝監督は、登壇し「ありがとうございます。一足早く日本に帰った坂元裕二さんに、すぐ報告します」と、坂元氏に代わって脚本賞を受け取った。その後、現地メディアの中継で是枝監督は、すぐに坂元氏に受賞を報告。同氏は「夢かと思った」「たった1人の孤独な人のために書きました。それが評価されて感無量です」と喜びを寄せた。

「怪物」は、是枝監督にとって邦画3作ぶりとなる新作。同映画祭コンペティション部門への出品は、韓国映画に初めて挑戦した22年「ベイビー・ブローカー」に続き、2年連続、7回目の選出(カンヌ国際映画祭への出品自体は9回目)。監督は、自ら脚本も執筆するのが映画製作の基本スタンスで、外部の脚本家とのタッグは、95年の映画監督デビュー作「幻の光」以来28年ぶり。坂元氏が川村元気プロデューサーと作っていたプロット(あらすじ)を、18年に是枝監督に見せた“逆オファー”によって、初タッグが実現した。

是枝監督は、スピーチで「僕がこの脚本の基になったプロットを頂いたのが2018年(平30)の12月なので、もう4年半前になります。そこに描かれた2人の少年たちの姿をどのように映像にするか、少年2人を受け入れない世界にいる大人の1人として、自分自身が少年の目に見返される、そういう存在でしかこの作品に関わる誠実なスタンスというのを見つけられませんでした」と製作の経緯を語った。さらに「なので、頂いた脚本の1ページ目に、それだけは僕の言葉なんですけども『世界は、生まれ変われるか』という1行を書きました。常に、自分にそのことを問いながら、この作品に関わりました」と続けた。

是枝監督は「一緒に脚本を開発した川村さん、山田さん(兼司プロデューサー)、作品に関わっていただいたスタッフ、キャストの皆さん、みんなの力でこの賞を頂けたと思っております。ありがとうございました」とスピーチした。

◆坂元裕二(さかもと・ゆうじ)1967年(昭42)5月12日、大阪府生まれ。19歳で第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞しデビュー。同系の07年「わたしたちの教科書」で第26回向田邦子賞、11年「それでも、生きてゆく」で芸術選奨新人賞、13年「最高の離婚」で日本民間放送連盟賞最優秀賞。日本テレビ系の10年「Mother」で第19回橋田賞、14年「Woman」で日本民間放送連盟賞最優秀賞。TBS系の17年「カルテット」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。近年の作品には21年のフジテレビ系「大豆田とわ子と三人の元夫」、22年の日本テレビ系「初恋の悪魔」など。16年から東京藝術大大学院映像研究科映画表現技術脚本領域教授。

◆「怪物」大きな湖のある郊外の町で起きた、よくある子供同士のケンカに見えたものが、息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たちの主張が食い違い、次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちがこつぜんと姿を消す物語。シングルマザー麦野早織を安藤サクラ(37)沙織の息子・湊を黒川想矢(13)湊の友人の星川依里役を柊木陽太(11)担任教師の保利道敏を永山瑛太(40)が、それぞれ演じた。劇中には、黒川が演じた湊と柊木が演じた依里が、男の子同士でお互いを好きになっていく過程と、その心の動きが繊細かつ克明に描かれている。2人は演じるに当たり、性的シーンで俳優と製作側を取り持ち、ケアするインティマシーコーディネーターや、保健体育の先生の指導も受けている。