私の上司だった故黒田清さんは「戦争に季節はないが、夏になると戦争を思い出す」と語っていた。
その夏に「原爆資料館 語り継ぐものたち」が公開されている。私が、かつて一緒に仕事をした広島ホームテレビの立川直樹さんらが監督、制作した映画だ。
黒こげになったお弁当箱。銀行支店前の「人影の石」。「天国でも遊んで」と遺体と一緒に埋葬されたあと、掘り出された三輪車など被爆の実相を伝える遺品の数々。
何より重く響くのは、大八車に焼けたモンペやガレキを積んで資料館開館にこぎつけた初代から現在の14代館長まで、本人や遺族の証言を丹念に引き出していることだ。うち数人は胎内を含めてご自身が被爆者だ。
半世紀に及ぶアーカイブという局の貴重な財産に加え、歴代の先輩から後輩へと引き継がれてきたバトン。テレビというメディアにしか作れないドキュメンタリーだ。
ところが画面が終盤に近づくと、ガツンと衝撃が走る。2023年5月、広島での「G7サミット」。当時のバイデン米大統領をはじめ、EU代表らが広島出身の岸田首相のエスコートで原爆資料館を視察した。
だが館内の取材はシャットアウト。それどころか、全面ガラス張りの館の壁は1ミリの隙間もなく、白い粘着テープが貼られ、視察は被爆の実相を伝える遺品を本来の展示場から一部移して首脳に見せたという。なぜこんなことを。
私は映画の前半、被爆して3カ月間は目が見えなかったという第8代館長(故人)の言葉を思い起こした。「原爆資料館の遺品は、まさに人間の叫びなんですよ」。
映画はその怒りに応えるようにG7終了後、目隠しテープをバリバリと剥がす場面を流す。なぜ被爆国が凛として核保有国に核を持つことの愚かさ、恐ろしさを伝えようとしないのか。
いや、それどころではない。あれから81年。防衛大臣が「核保有の本格議論を」と平然と言ってのける、2026年被爆国の夏である。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。東海テレビ「ニュースONE」静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」など出演中。


