「3A」といえば、米メジャーリーグ傘下の組織。この言葉が最近、スポーツ紙ではなく一般紙や報道番組でひんぱんに登場する。安倍政権時代から盟友の安倍晋三前首相、麻生太郎財務相、甘利明税調会長3人の名前の頭文字だ。3人は最近、自民党で次々に立ち上がる議員連盟の中心メンバーで、活動を活発化させる安倍氏が複数で最高顧問などに就任している。安倍政権時代から党の人事とカネを握り、まもなく5年になる二階俊博幹事長のポストに狙いを定めた「人事抗争」「主導権争い」ではとの見方がある。3Aは現在の日本で、緊張感あふれる話題のキーワードだ。

そんな3Aのメンバーと二階氏が交錯する会合が、15日に自民党本部で行われた。二階氏が会長を務める「自由で開かれたインド太平洋」推進議連で、安倍氏の最高顧問就任も発表された。約130人の議員のほか、大勢のメディアで8階の会議室は満杯に。安倍、二階両氏は第2次安倍政権後半、二階氏の幹事長続投をめぐる攻防が報じられた間柄だが、また当時の雰囲気が再燃しつつある。

安倍氏は冒頭「マスコミの皆さんもたくさんおられる」と会場を見回しながら「いろんな顧問を引き受けているが、この会こそ引き受けたいと思った」と、横に座る二階氏を見ながら思わせぶりに語った。「政治家はあきらめない、しつこくということが大切」と話すと、拍手が起きた。その前にあいさつした二階氏のぼそぼそとした口調とは対照的に、冗舌だった。

会の始まりは午後5時、8階の会議室。30分後、1階下にある7階のやや小さめの会議室で、3Aの1人、甘利氏が会長を務め、安倍氏が最高顧問を務める「半導体戦略推進議連」の勉強会が開会。当初、二階氏の議連と開始時間が同じで「二階氏と3Aが全面対決か」と騒動になり、甘利氏側が時間をずらした。会が始まってしばらくすると、二階氏の懐刀、林幹雄幹事長代理が8階から移動。甘利氏は「これが、この議連の趣旨です」と“融和”を強調したが、額面通りに受け取った人はどれほどいただろう。義理は果たしたとばかりに、林氏はその後、また8階に戻った。

自民党の歴史には、大小含めてさまざまな権力闘争があった。「角福戦争」「四十日抗争」など、今も語り継がれる熾烈(しれつ)な戦いも少なくない。近年の安倍1強時代は安倍氏にものをいえる人がおらず、深刻な党内のもめごとはほとんどなかった。ただ今回は、前首相や前首相の盟友コンビ、こわもて現職幹事長が当事者。まぎれもない権力闘争にみえる。

二階議連では、3A、二階氏双方に軸足を置く格好となっている安倍氏が1人、元気だった。首相を辞め自由に発言する機会が増える中、「周囲が安倍氏の活動を支援するため」ともいわれるほどの議員連盟乱立で、最高顧問などの立場で前面に登場する。二階議連翌日の16日は「国民皆歯科検診」実現を目指す新たな議連が立ち上がり、ここにも参加。17日は二階氏が発起人の自治会や町内会を支援する議連でも、最高顧問として参加している。

首相時代と違ってよほどのテーマでよほどの失言でもしない限り、明確な責任は生じないかもしれない。一方で「3A」の1人として物事を動かす可能性がある立場=キャスティングボーダーになっているように見える。前首相ながら、生々しい権力抗争のさなかにいるのだ。

対立や分裂を繰り返す野党とは異なり、数の力の意味を知る自民党は最終的にはまとまるのが文化だ。ただ3Aと二階氏の動きは、自民党総裁選や衆院解散・総選挙が行われる今年秋に向けて、新しい政局的な流れを生むかもしれない。永田町に長年勤めるベテランは、最近の動きをこう評した。「抗争こそ、自民党ですからね」