自民党総裁選告示日、党本部近くに事務所を構え、演説する小池百合子氏(08年9月11日撮影)
自民党総裁選告示日、党本部近くに事務所を構え、演説する小池百合子氏(08年9月11日撮影)

菅義偉首相が3日、突然、自民党総裁選への不出馬を表明、30日の任期満了をもって退陣することになった。前回のコラムで、やることなすことがうまくいかず、追い詰められた「ケンカ師」の首相が、事態打開を目指して「やぶれかぶれ解散」を模索していることに触れたが、そのプランが自分の口からではなく報道で公になるや、党内の雰囲気は一変。「伝家の宝刀」でもある解散権を、自分の保身のために使おうとしている首相への怒りは、所属議員に話を聞いても半端ではなかった。首相は報道を否定し、結局、解散には踏み切れなかった。

解散カードを封じられた総理大臣に、残された道はもはやない。退陣へのカウントダウンは、この時、明確に始まったと思っている。

「ポスト菅」を選ぶ自民党総裁選では、首相との対決を前提に岸田文雄前政調会長(64)がすでに出馬表明。ワクチン担当の河野太郎行革相(58)、石破茂元幹事長(64)らの名前が上がり始めた。個人的に注目するのは、女性候補。自民党総裁選の歴史を見ると、女性議員が出馬したケースはただ1回。現在、東京都知事の小池百合子氏(69)が臨んだ2008年の総裁選のみだ。女性国会議員が少ないとはいえ、女性議員にとってはなかなか高い「壁」になっている。

小池氏が出馬した08年総裁選でも、小池氏は最大派閥の清和会(当時は町村派)にいながら、推薦人20人集めに苦労。清和会から生まれた第1次安倍政権、福田政権が1年ずつで退陣となり、この時は自主投票になったことも影響した。

出馬にはこぎつけたものの、その後も、トラブルが。小池氏は自民党本部の横にあるビルの1階に選挙事務所を開き、事務所前で華々しく街頭演説まで行ったが、1日で突如、事務所が「撤収」になった。情報を得て事務所があったビルに取材に行ってみると、もぬけのから。小池氏の出馬を快く思わない派閥の「圧力」ではないかとの見方が流れた。権力闘争って怖いなあ。そんなことも思った。

この時の総裁選は5人が出馬し、麻生太郎氏が圧勝。小池氏は36票で3位に終わった。麻生氏は1年後、衆院選で敗れ、民主党に政権を明け渡した。小池氏以降、女性議員が総裁選に出馬したケースはない。

今回の総裁選で出馬に意欲をみせる野田聖子幹事長代行(61)も、過去、何度も出馬を模索したが、20人の推薦人確保を含む「派閥の壁」を破れずにきた。

自民党総裁選への出馬断念を会見で表明する野田聖子氏(右)(15年9月8日撮影)
自民党総裁選への出馬断念を会見で表明する野田聖子氏(右)(15年9月8日撮影)

2015年、「安倍1強」といわれた第2次安倍政権下の安倍晋三前首相に挑む候補がない中、出馬を模索。安倍氏の無投票再選は健全ではないとして「亀のような歩み」といいながら推薦人確保を続けた。確保にめどがついたのもつかの間、安倍氏の無投票再選を目指す派閥の推薦人引きはがしにあい、最終的に出馬断念。早朝、議員会館で行われた出馬断念会見ではさばさばした表情だったが、多様な議論を封じられた悔しさをにじませた。総裁選は安倍氏の無投票再選で終わった。

当時、野田氏に「こんなことでいいんですか」と質問をぶつけると、複雑そうな笑顔を浮かべていた。

今回の総裁選では野田氏のほか、高市早苗前総務相(60)も出馬へ準備を進める。現在は無派閥だが、もともと清和会に所属していた。清和会は、思想信条的に近い安倍氏の出身派閥。野田氏に比べれば、推薦人確保のハードルは低いのかもしれない。高市氏を含めて今週、岸田氏に続く総裁選出馬の動きは、どんどん出てくるだろう。女性が出馬なら、小池氏以来13年ぶり2人目。もし女性候補が勝つようなことがあれば、初の自民党女性総裁、女性首相が生まれることになる。

国会の土産店には、歴代総理の顔イラストが描かれたマグカップやタオルなどのグッズが売られている。先日、タオルを手にすると、菅首相の次は当然、空欄だった。菅首相は第99代。次の首相は第100代のメモリアルだ。そこに女性の顔が刻印されることはあるのだろうか。そして、女性首相が特別なことではなくなる時代は、いつか訪れるのだろうか。【中山知子】