参院選前の今年5月下旬、都庁近くのホテルで開いた自身の会合に出席する小池百合子都知事(22年5月25日撮影)
参院選前の今年5月下旬、都庁近くのホテルで開いた自身の会合に出席する小池百合子都知事(22年5月25日撮影)

東京都の小池百合子知事と、小池氏が特別顧問を務める地域政党・都民ファーストの会が、大きな岐路を迎えている。小池氏の腹心で、都民ファの代表を務める荒木千陽氏が、国政進出を目指した“別動隊”「ファーストの会」の候補者として7月10日投開票の参院選東京選挙区に出馬したが、改選の6議席に遠く及ばず、全34候補中10位で落選した。6位当選のれいわ新選組山本太郎代表のほぼ半分の票数で、維新や立憲民主の新人、無所属の乙武洋匡氏にも及ばなかったことは、都政、国政の関係者の間に驚きをもたらした。

荒木氏は小池知事の側近中の側近。選挙期間中は小池氏が「私の長年の相棒」と荒木氏を評し、平日は公務後の夕方以降、休日はつきっきりで、18日間中14日、応援に入った。昨年の都議選で惨敗が予想された都民ファ候補の応援に、当時体調を崩していた小池氏が投票日前日のたった1日回っただけで惨敗を免れ、第2党に踏みとどまった「成功体験」(都政関係者)があった。都民ファ内でも小池氏の応援があれば荒木氏も…という楽観的な期待が、当初はあったという。

しかし、東京だけが舞台の都議選と、国政選挙という参院選の東京選挙区での戦いは、戦う相手も、有権者の視線の向き方も異なる。期間中、小池氏が都知事選の選挙選で大群衆を集めたのと同じ場所で街頭演説を取材したが、当時のような熱気はなかった。

また、かつて激しく対立した自民党都連を「ブラックボックス」と言い放ったこともある小池氏だが、演説中「皆さんの1票で新しい政治へと変えることができる。国の体質を変えていこうではありませんか」とは言うものの、自民党や政権の批判はしなかった。荒木氏の協力の成果をまじえつつも、都政で自身が進める政策の説明に多くの時間を割いた。荒木氏といっしょにいても、演説の「主役」はどこか小池氏だった。

結果的に荒木氏への関心が思うように広がらず、小池氏の応援効果も現れず、「相棒」の国政進出はかなわなかった。急な解散で候補者を擁立できず、時間切れ不戦敗に終わった昨年の衆院選に続き、参院選で連敗を喫した都民ファ。自民党関係者は「明確な敵を仕立て、戦ってこその『小池劇場』。自分が選挙に出てたわけでもなく、演説も中途半端だった。小池さんの影響力がなくなったとは思わないが、今回の小池劇場は不発だったと言わざるを得ない」と指摘した。

荒木千陽氏(左)の街頭演説でこぶしを突き上げる小池百合子都知事(22年6月18日撮影)
荒木千陽氏(左)の街頭演説でこぶしを突き上げる小池百合子都知事(22年6月18日撮影)

参院選敗戦で、混乱も予想されるのは都民ファの「戦後処理」だ。荒木氏は、東京都議を2期目途中で辞して参院選に臨んだため、都議のバッジも失った。小池氏が都知事に就任し、翌2017年7月の都議選で「都民ファーストの会」を大躍進させた時、都議に初当選した荒木氏。同年に代表に就任し、小池氏と、都民ファや都議会の「パイプ役」になってきたが、今後、一民間人として引き続き代表職にとどまるのは現実的ではない。荒木氏がもし代表職を退くことになれば、だれが小池氏とのパイプ役になり、知事与党を率いるのか。小池氏の今後の都政運営にも絡む人事だけに、注目は高い。

都民ファは、荒木氏のように小池氏を秘書やスタッフとして支えた都議や、小池氏の小選挙区時代の地元区議出身の都議、「都民ファ旋風」で当選した都議、他党からの移籍組など、さまざまな出自の都議で構成されている。躍進した17年都議選以降、一枚岩で来たわけではなく、途中で党を離れたメンバーも少なくない。現勢力も最盛期の6割ほど。昨年秋の不戦敗に続き参院選での国政進出失敗で、執行部の責任論を問う声もくすぶっている。

都民ファは近く、「ファーストの会」として戦った参院選の総括を行う予定だ。荒木氏が落選したことを受けて今後の指導体制をどうするのかが最大の焦点になるとみられるが、党の今後を不安視する声も出ているという。参院選が終わり、主要政党各党は来年春、令和になって初めて行われる統一地方選を見据えて動き始めている。統一地方選に臨む体制構築を急がなければ、都民ファの存在感も薄れかねない。

「相棒」を国政に押し上げられなかった小池氏。2020年に再選された2期目の任期は7月末に、残り半分へと、折り返し地点になる。3期目出馬があるのか。一方、本人は否定するが「国政復帰」論の臆測も消えない。ただ、岸田文雄首相が参院選大勝で手にした「黄金の3年」をどう操るかで、次の衆院選の時期も変わってくる。 

緊密に連携し、親交があった自民党の二階俊博元幹事長は権力の表舞台から外れ、安倍晋三元首相はこの世を去った。「自ら政局の主導権を握ることもあった小池さんも、今は自分ではどうにもならない立場になった」。話を聞いた自民党関係者は、そう指摘した。【中山知子】