岸田文雄首相(2022年7月18日撮影)
岸田文雄首相(2022年7月18日撮影)

通常国会が始まり、岸田文雄首相の施政方針演説と各党の代表質問が終わった。コロナ禍対応で本会議場の出席人数が少ないこともあるが、自民党席の拍手の少なさ、野党のヤジの切れ味のなさもあり、防衛増税や少子化対策、首相の衆院解散戦略などいくつかの大きなテーマはあっても、淡々と時間が過ぎていった印象を受けた。代表質問は、質疑が一方通行で、再質問をしないかぎりは首相の答弁も言いっ放しで終わる。首相は、自身の代名詞になっている「検討」を持ち出しながら、政府の方針を「決断」したことを強調していたが、その「総理の決断」にけちがつきそうな問題が、表面化した。

首相の長男で、昨年10月に異例の若さで政務担当の首相秘書官に就いた岸田翔太郎氏(32)の問題だ。国会が始まる前に行った欧米訪問に同行した翔太郎氏が、現地で観光地をめぐったり、おみやげを買いに行くのに公用車を使ったと「週刊新潮」が報道した。

報道された当日1月26日、木原誠二官房副長官は記者会見で「報道は承知している」と否定も肯定せずに一般論を披露したが、翌日27日の記者会見では「各地での行動について改めて点検を行った」として、「国際機関訪問や関係者との意見交換」「対外発信目的に使用する風景の撮影」「首相の政治家としての土産購入」が目的だったとして、「政務秘書官の公務として不適切な行動はなかった」との見解を示した。

時の総理大臣を間近で支え、しかも首相秘書官の中でも「番頭格」の立場の政務担当秘書官について、いちいち行動を点検しなくてはならない事態になったこと自体が、本来は情けないこと。ただ、この会見では、公用車を使ったという報道に対する見解は示されていない。公用車は、文字からして公用で使うための移動手段。いくら首相のためとはいえ、PRのための写真撮影の素材集めやおみやげ購入のために公用車を使い、それを、私的な観光はしていないので、秘書官の公務として不適切な行動はないと結論を出すのは、ちょっと早いのではないかと感じる。こういう情報が週刊誌に流れたこと自体、「おかしいと思う人がいたからではないか」(政界関係者)との指摘もある。そもそも公用車の使い方は、これまでにも議員や秘書に対して厳しい目が向けられてきた問題だ。

首相の息子の問題でもあり、点検も結論が出るのも早かった。素早い幕引きが必要だったためなのは想像に難くないが、問題がこれで終わるとは思わない。明日1月30日から始まる衆院予算委員会で、本来は必要のない追及ネタが野党側に提供されたような形になった。

翔太郎氏が就任したのは昨年10月、31歳の時。政務担当の首相秘書官といえば、小泉純一郎元首相の飯島勲秘書官、安倍晋三元首相の今井尚哉秘書官など、総理大臣を超えるような存在感もあった人物が担った重責ある立場だが、それを30代、しかも首相の世襲後継者としての立場が見込まれる人物が起用されたため、当初から「身内びいき」の批判が出た。岸田内閣の政務担当の首相秘書官には、内閣発足当時から務める経産事務次官出身の嶋田隆氏というブレーンがいる中での、身内からの登用だった。

参院本会議で答弁する岸田文雄首相(2023年1月24日撮影)
参院本会議で答弁する岸田文雄首相(2023年1月24日撮影)

首相は昨年10月の参院本会議で、翔太郎氏を起用した理由をただされ、ネット情報やSNS発信への対応を1つにあげていたが、今回の報道で、写真撮影やおみやげ購入という「秘書官でなくてもできる」(自民党関係者)業務を抱えていることが露呈した。政務担当秘書官の仕事って、決してそんなことではないと思うのだが、これが首相の身内だからこその担務であったとするなら、やはり違うんじゃないのということになりかねないと感じる。

翔太郎氏については昨年の就任後、「重要な情報をマスコミに漏らしたのではないか疑惑」のうわさが流れ、各社が裏取りに走るハプニングも起きた。本来「黒子」であるはずの秘書官に、業務以外のことでスポットライト(悪い意味での)が当たるのは、やっぱりおかしい。身内であればなおさら、厳しい目が注がれている。

昨年は、閣僚という「政権内の身内」の問題や失言、辞任ドミノに振り回された岸田首相。今年は明けて早々、本当の身内の問題で釈明をすることになりそうだ。首相は人事を行うに当たって強いこだわりがあり、自身の「人事眼」には自信を持つといわれる。もちろん、うまくいったケースもあるかもしれないが、少なくともこのところは、閣僚の任命責任だけでなく秘書官起用についても、「看板倒れ」になりかねない事態が続いている。【中山知子】