「夜の10時半に電話をかけてきて、あなた、その質問はないでしょうと(笑い)」。

今年6月、自民党の鈴木貴子衆院議員が在職10年を記念して、都内で開いた感謝の集い。来賓の1人としてあいさつに立ち、こんな言葉を口にしたのは、同党の小渕優子組織運動本部長(49)だ。自身の父小渕恵三氏が首相時代、官房副長官を務めた鈴木宗男氏の長女で、小学生のころから知っているという貴子氏に、かつて子づくりに関する相談を夜間の電話で受けたことがあるという思い出話を披露し、場内の笑いを誘った。

通常国会が終わって1カ月が経過し、永田町周辺は表向き静かだが、岸田文雄首相が9月にも踏み切るとみられている内閣改造や自民党役員人事に向けて、水面下での「ざわつき」は続いている。その改造や人事に向けて、いろんなところで名前を聞くのが、この小渕氏だ。岸田首相が、何らかの形で小渕氏を起用するのではないかという見方。本当にそうなれば久しぶりの「表舞台」復帰となる。

父が首相在職中に急死し、急きょ地盤を継いで2000年の衆院選に出馬し、26歳で初当選した小渕氏も今年、50歳になる。初当選時は「政界のサラブレッド」などと呼ばれ、麻生内閣では、少子化担当相として、戦後最年少の34歳で初入閣した。その後、第2次安倍内閣の経産相時代、関連政治団体をめぐる政治資金の問題が発覚し、更迭された。関係者がデータ入りのパソコンハードディスクに工具で穴を開けたとして、「ドリル優子」と批判され、表舞台で活動しにくい状況が続いた。2021年10月の岸田政権発足に伴い、自民党組織運動本部長に就任。「復活」への道筋も見え始めたが、政治資金問題で受けたダメージは、今もくすぶっている。

それでも、永田町で取材をすると、小渕氏については「幹事長など自民党4役」や「官房長官」や「閣僚」など、さまざまなポスト予想が飛び交っていると聞いた。特に、自民党の要職ポストとなると、小渕氏が所属する茂木派(平成研究会)会長、茂木敏充幹事長の立場との兼ね合いも生じるため、「将来の派閥会長候補」とされる小渕氏とのセットで、茂木氏の去就も関心を集めている。

永田町関係者は「茂木氏は仕事はできる人だが、人当たりがあまり良くない。ご本人も最近は親しみやすさをアピールしているが、ポスト岸田を狙う茂木氏があまり力を持ちすぎると困るのも、岸田首相。今回の改造や人事の最大関心事は、首相が茂木氏をどう処遇するのか。それによって小渕さんの処遇も固まってくる」と話してくれた。

生前、茂木派に強い影響力を持っていた青木幹雄元官房長官が6月に亡くなり、青木氏との関係性の悪さが有名だった茂木氏と、小渕内閣の官房長官だった青木氏が後見役でもあった小渕氏の「パワーバランス」に、今後変化が出るという分析もある。ただ、自民党関係者は、岸田首相は小渕氏のことを「買っているのではないか」と話す。

小渕氏は酒豪で知られ、「ノミニケーション力」もあるといい、同じ酒豪の首相は親近感を感じているという。3月に来日した韓国の尹錫悦大統領との夕食会では、最も酒が強い日本の政治家として、小渕氏の名を挙げて紹介した。また、岸田首相は尹氏と菅義偉前首相の会談の場に、当初予定になかった小渕氏を同席させた。小渕政権時の1998年に「日韓共同宣言」が出されており、首相が重視している日韓外交の「カード」としても、小渕氏は存在意義を見いだされている。

野田聖子氏や高市早苗氏、都知事に転身した小池百合子氏など、自民党では「女性初の総裁→首相」を目指して総裁選に出馬した女性議員たちがいるが、総裁はもちろん党ナンバー2の幹事長にも、まだ女性の登用は実現していない。自民党内には、今回の内閣改造や自民党人事で、首相が女性や若手議員の積極登用を考えているとの見方もある。もし小渕氏が要職に抜てきされるようなら、女性総裁候補の「世代交代」にもつながるという声も聞く。

小渕氏は、冒頭記したパーティーのあいさつの最後に「子どもたちのために良い国を残したいという覚悟で、母として腹をくくり、いばらの道を歩いて行きたい」と口にした。後輩へのエールのようで、自分に向けた言葉のようにも受け取れた。今後もし要職に就いて表舞台に戻ってくれば、政治資金問題も蒸し返されることになるだろう。必ずしも順風ばかりではなかったといえる小渕氏の政治家人生。「転機」が訪れた場合の身のこなし方には、今から関心が注がれている。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)