7月29日は、日本政界のリーダー3人の誕生日だ。岸田文雄首相(65)、立憲民主党の泉健太代表(48)、共産党の志位和夫委員長(68)がまもなく、同じ日にそれぞれ1つ年を重ねる。岸田首相が2021年10月4日に首相に就任し、泉氏が同年11月30日に党代表に就任したことで、2000年から委員長を務める志位氏とともに、同じ誕生日の与野党3党首が生まれる形に。泉氏は代表就任時の会見で「運命的なものを感じる」と語っていた。
岸田首相は、首相就任後初めて迎えた昨年の65歳の誕生日、自身のツイッターにこう記した。「首相就任以来、緊張感の連続、真剣勝負の連続でした。これからも難しい課題が山積しています。初心を忘れず、努力を続けてまいります」。
この「初心」とは、自民党総裁選出馬の際などに語っていた、国民の政治への信頼を取り戻すため、国民の声を聴くという自身の原点の思い。売りの「聞く力」でもある。ただ、昨年7月の安倍晋三元首相の銃撃事件以降、表面化した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との関係や内閣改造で選んだ閣僚の資質問題、安倍氏の国葬の是非などをめぐり、誕生日の後、支持率は急落。国民の信頼が失われつつある状態に危機感を持ったのか、首相はコロナ療養明けの8月末の記者会見で「原点に立ち戻り」「初心に帰って」という言葉を連発。「初心を忘れていたという意識があるのか」と記者に指摘されると「(総裁選の)あの時の思いを今1度思い返し、国民の皆さんの厳しい声にしっかり応える思いを新たにしなければならない」と語っていた。
昨年10月の臨時国会の所信表明でも「厳しい意見を聞く姿勢にこそ、政治家岸田文雄の原点があるとの初心を改めて肝に銘じながら、職責を果たすべく全力で取り組みたい」と述べるなど、節目節目で初心に立ち返っていたようだ。ただ、初心に戻りっぱなしで、戻った結果、どういう変化が訪れたのか、あまり見えていないようにも感じる。
その後も閣僚のドミノ辞任で政権は揺れ、今年に入ると、自身の長男を含む秘書官の資質問題が、長らく尾を引いた。ウクライナ電撃訪問やG7広島サミットなど、得意の外交シーズンを迎えて内閣支持率が上がったと思ったら、衆院解散するのかしないのかで、多くの国会議員らを振り回した。旧統一教会をめぐる問題はくすぶり、最近は、国民の生活に直結するマイナンバーカードのトラブルでの説明や対応が不十分なため(河野太郎デジタル相を含めて)、支持率は下落するばかり。首相が繰り返す「先送りできない課題に1つ1つ答えを出し、まい進することで職責を果たす」というフレーズの実態感も見えないまま、時間が過ぎてきた。
そして今、岸田首相は再び「原点回帰」している。6月の通常国会最終日の記者会見で「この夏、政治家岸田文雄の原点に立ち返り、みなさまの声を伺うことに注力したい」と述べた。その国民との対話が、7月21日に栃木県から始まった。全国を行脚し、国民の声を聴く場にするという。
首相、または自民党総裁が国民と対話をするのは、2009年衆院選で自民党が野党に転落後、谷垣禎一総裁が始めた「ふるさと対話集会」が原点にある。政権を失ったおごりを改め国民の声を聴こうという趣旨で始まり、2020年10月に通算1000回を数えた。岸田首相も踏襲している形だが、政界関係者は「いまさら初心に戻らずとも、国民の声を聴いてほしい。声を聴く場は、原点回帰のためのツールではないのだから」と苦言を呈する。
この後は、トラブルが相次ぐマイナンバーカードひも付け情報をめぐる総点検の中間報告が控える。外遊優先で「遅すぎる」と批判も出た、大雨による被災地への訪問も予定される。言葉だけではなく、本当に国民の声に耳を傾けなければならない局面が続く。
「初心を忘れず」の言葉で始まった首相の65歳のこの1年は、「困った時の初心頼み」で乗り切ってきたようにも感じるが、その成果はいまひとつ見えにくい。初心に戻り続けたこの1年間を経て、今年7月29日の誕生日、岸田首相はどんなコメントを口にするのだろう。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


