「美化された私」をSNSにアップする人が続出


SNOWの「AIアバター」で顔写真10~20枚から生成された画像。画像によっては本人とどことなく似ているのが面白い(編集部撮影)
SNOWの「AIアバター」で顔写真10~20枚から生成された画像。画像によっては本人とどことなく似ているのが面白い(編集部撮影)

ここ最近、ネットで美しい顔写真を見る機会が増えているのではないだろうか。特にFacebookでは、美しく加工された顔写真が盛んに投稿されている。ある写真は宇宙服を着たイケメン、ある写真は花の王冠をかぶった美女など、本人の面影を残しつつ、かなり美化された画像となっている。「かわいい!付き合ってください」「この人に会いたいです」などのコメントやいいねがたくさん付き、お気に入りの1枚をプロフィール画像に設定する人も増えてきた。


これは、自撮りアプリ「SNOW」の「AIアバター」というスタンプ(エフェクト)で作成された画像だ。AIアバターとは、自分の顔が写った写真を10~20枚アップロードすると、SNOWのAIが「新しい自分」を作り出してくれるというもの。利用するには代金を支払う必要があり、作成する枚数により金額が異なる。480円の「AIアバター 50」は5種類のスタイル、計50枚の画像が作成され、650円の「AIアバター 100」は10種類、計100枚、1100円の「AIアバター 240」は10種類、計240枚作成される(価格は執筆時点)。スタイルは、「ベーシック」「ファンタジー」「サイバーパンク」などがある。


料金を支払うとAIによりアバターが生成され、作成が完了すると画像を保存できる。もし、再度試したい場合は、さらに料金が必要となる。


AIに翻弄(ほんろう)されることも楽しみのひとつ


AIアバターは、1月中旬頃からインフルエンサーや芸能人により「#PR」付きでSNSへの投稿が始まり、面白いと感じた芸能人が利用することで人気に火が付いた。AIが生成する画像のなかには、人間とは思えない造形になっているものや、全然盛れていない顔写真が作られていることもあり、AIに翻弄されることも楽しみのひとつとなっている。


SNOWの「AIアバター」で作成された男性の画像。女性に比べると雑さが否めない(編集部撮影)
SNOWの「AIアバター」で作成された男性の画像。女性に比べると雑さが否めない(編集部撮影)

実際に利用した人に話を聞いたところ、「顔写真を選ぶ段階で枚数が足りなくて断念した」という人や、「SNSに投稿したらみんなが反応してくれて楽しかった」「メークや髪形の参考になった」と話す人がいて、有料でも満足のいく結果になっているようだ。男性はしわや顔の彫りがくっきりとした渋い男性風の加工になることが多く、女性は若返り効果が施される傾向がある。


ある男性は「出来が気に入らない」ともう一度追加したそうだが、もしかするとSNOWのAIが男性の教師データをあまり持っていないからかもしれない。この流行により、今後精度が上がっていくことが予想される。


AIアバターの流行で、以前の流行を思い出した人もいるだろう。2020年頃、Facebookでは男性がこぞって若い女性に変貌した写真を投稿していた。これは、ロシアで開発された「FaceApp」という加工アプリで、女性が男性になったり、シニアになったりすることもできる。しかし、もっとも楽しまれていた使われ方は男性の女性化で、自分の姉や母に似ているという人もいれば、「結構タイプだ」とつぶやく人もいた。


現在では、女性への加工がさらに進化し、FaceAppで加工した後に他の自撮りアプリでメークや美顔加工を施してかわいい女性を作り上げる人が増えている。これは「カコジョ(加工女子)」と呼ばれ、主に中年男性が楽しんでおり、Twitterでの交流も盛んだ。「#カコジョ」で検索すると、男性とは思えないかわいらしい女性たちがほほ笑んでいる投稿が数多く見られる。


また、自分の顔を動画の顔と差し替え、ダンスを踊ったり、映画のワンシーンに入ったりできる「Reface」も2020年に一大ブームとなった。


Refaceはアメリカの企業が開発したアプリで、顔写真を1枚送るだけでハリー・ポッターやアイアンマンの顔部分に自分が入り、映画の主人公のように動きだす。自分では決してできない激しいアクションや洗練されたダンスに、「自分だけど自分ではない」おかしさに笑ってしまう。Refaceでは、プリンセスのように加工された動画を投稿する女性が多く見られた。


10代にはTikTokの「AIマンガ」が人気


自撮りといえば若者のイメージだが、周囲の若者に聞いてみても、SNSを検索しても、「AIアバター」を試しているのはほぼ大人のようだ。


理由のひとつは、「AIアバター」が有料であることだ。プリントシール機に比べれば少し上乗せした程度だが、プリントシール機は友人とわいわい撮影すること自体が楽しいため、比較にはなりにくい。


また、Z世代を中心に「無加工」ブームが訪れていることも大きい。「自撮りを盛ることは恥ずかしい」と考え、スマホの標準カメラやTikTokの「無加工」エフェクトで撮影する人が増えている。加工する際でも、ごく自然に肌を明るくしたり、メークをしたりする「ナチュラル盛り」にとどまる。盛り過ぎると、「自己愛が強い」と思われてしまうからだ。


とはいえ、エフェクトをまったく使わないわけではない。人気のエフェクトは、目と口が輪郭をはみ出すほど大きくなったり、極端に小さくなったりといった、それを見た友人が思わず笑ってしまうエフェクトだ。


TikTokで人気の「AIマンガ」は使用前後も動画で撮影する(筆者撮影)
TikTokで人気の「AIマンガ」は使用前後も動画で撮影する(筆者撮影)

SNOWの「AIアバター」に近いエフェクトとしては、TikTokの「AIマンガ」がある。AIマンガでは、自分の顔をモチーフにしたイラストが生成される。元になる顔を最初に写して、どう変化するかの過程を動画撮影して投稿することで、盛ることが恥ずかしいと感じる若者でも利用しやすく、人気が高い。


他に「AIポートレート」というエフェクトもあるが、これも加工した自分の顔を背景に、素の自分を自撮りするものだ。「こんなに変わったよ」と、見る人も一緒に過程を楽しめる点がイマドキなのかもしれない。


FacebookやTwitterで大流行し、まだ勢いが止まらない様子のSNOW「AIアバター」を、私の友人は「宮廷画家」に例えた。宮廷画家は本人らしさを残しつつ、本人が気に入るように美化した自画像を作り上げてくれる。AIが宮廷画家を務めてくれる時代が訪れたと思うと、感慨深く思える。

【鈴木 朋子 : ITライター・スマホ安全アドバイザー】