ドナルド・トランプ次期米大統領(70)に会ったことがある日本人がいる。一橋大非常勤講師で国際経営コンサルタントの植山周一郎さん(71)は1988年(昭63)6月13日、テレビ東京系「ハローVIP!」のインタビューでニューヨークのトランプタワー26階にある社長室を訪れた。番組で見せた経営者としての手腕は、大統領選でも健在だった。有権者の心をつかんだ手法は昔と変わらない。

 「暴言王」から一転、勝利宣言では穏やかな口調で「融和」を求めたトランプ氏を見た植山さんは「28年前のトランプが帰ってきたと思った」という。

 植山さん 日米関係の持論は今と同じ。「日本の安全保障は米国がやってるが、日本の経済貢献度は少ない。バカな米国の政治家と交渉した日本人は頭が良い。尊敬してるよ」と、穏やかに言葉を選んで話した。僕が「皮肉?」と聞くと「本心だよ」と。本当に嫌みに聞こえなかった。

 不動産王として絶頂期だったトランプ氏には、経営者としてのしたたかさがあったという。「日本人が見る番組を意識して、トランプが造ったマンションを日本人に売るために良いイメージをつくっていたのだろう」。したたかさは、今回の大統領選とつながった。過激な発言の連続は「白人貧困層」の留飲を下げる「計算」だったとみる。

 植山さん 私は高校時代、イリノイ州サンドイッチに留学した。プロテスタントの白人層が根底に抱く差別感情を目の当たりにした。口には出さないが、白人が米国の主流だと本気で思っている。そこにトランプが本心をくすぐる言葉を発して支持を集めた。ヒラリーは金まみれで「俺たちのことなんて分かるわけない」となった。

 大統領選出馬について聞くと「バカな政治家がバカな政治を続けていたら、あるかもね」と語っていた。当時レーガン大統領は俳優出身で「不動産屋がなってもいいよね」と話していた。同大統領の外交政策に反対し、ニューヨーク・タイムズ紙に広告を出すなど政治に興味があったという。

 インタビュー翌日はトランプ氏の誕生日だったため、急きょアトランティックシティーにある同氏のカジノで開かれたパーティーに招待された。歌手ジャネット・ジャクソンら有名人が訪れ、約1000人が集まったという。

 選挙戦で「メキシコに壁を造る」「日本の駐留米軍撤退」などを言い続けた。「公約だから何もやらないわけにはいかない。入国審査やグリーンカードの承認を厳しくしたり、日本に駐留経費増を求めるだろう。日本の政治家に英語でけんかできる人がいないとまずいよ」と分析した。【三須一紀】

 ◆植山周一郎(うえやま・しゅういちろう)1945年(昭20)3月15日、静岡県富士宮市生まれ。一橋大を経て、ソニー入社。英国ソニー販売部長などを務め、81年に植山事務所設立。以来、国際経営コンサルティングなどを行い、英ヴァージングループのアドバイザーも務めた。