「ひふみん」の愛称で親しまれている将棋の加藤一二三(かとう・ひふみ)九段が30日、東京・千駄ケ谷の東京将棋会館で引退会見を行った。午後3時、紺の上下スーツ、青いネクタイを少し長めに結ぶ定番スタイルで登場。「引退の会見を行います」と40社100人の報道陣の前で自ら仕切って、スタートさせた。

 63年にわたる現役生活を終えた現在の心境について、「大変スッキリした気持ち」と晴れやかな表情を見せる。1969年(昭44)の第7期十段戦で、「7時間も長考していい手を見つけて勝て、タイトルを初めて獲得し、生涯現役としてやっていけると自信が生まれた」と振り返った。

 42歳で念願の名人位を初めて獲得。「95%負けている将棋を逆転勝ちして念願の名人になった。神様のお恵みだったと考えています」。敬虔(けいけん)なキリスト教徒らしく、こんな言葉で語った。

 昨年12月には、加藤の持つ14歳7カ月のプロ入り史上最年少記録を5カ月塗り替えた、藤井聡太四段のデビュー戦の相手にもなった。引退に際して、「寂しいと言ってくれたことがうれしい。素晴らしい後継者を得た」とべた褒めだった。

 引退後は、「精魂込めて、精進した結果、指せた名局を5年がかりで本に書いて伝える義務がある。これからもやる気を失わないで、元気に人生を歩んでいく」と話した。

 通算成績は2505戦1324勝1180敗1持将棋。20歳で名人戦史上最年少挑戦者となり、「神武以来の天才」とも言われた。タイトルは名人など8期保持。勝利数は将棋界3位。対局数は1位。今年1月には77歳0カ月の史上最高齢で勝ち星を挙げている。

 昼食の定番はうな重。おやつにチョコレートやあんパン、チーズをムシャムシャ。対局の合間に賛美歌を歌ったり、盤を相手の側からのぞくなど、風変わりな面もあった。記録と記憶に残る名棋士だった。