将棋の最年少プロ棋士、藤井聡太四段(14)が2日、デビュー30戦目にして初黒星を喫した。東京・千駄ケ谷の東京将棋会館で行われた第30期竜王戦決勝トーナメント2回戦で午後9時31分、101手で先手の佐々木勇気五段(22)に敗れた。公式戦初の日曜対局で、6月26日に自身が達成した最多連勝記録は29でストップ。仕切り直しとなる次局は7月6日、大阪市の関西将棋会館で行われる順位戦C級2組で中田功七段(49)と戦う。

 藤井が負けを受け止めようと、脱いでいた背広を着て居住まいを正した。1分後、相手が自陣に打ち込んできた飛車を見て、「負けました」。公式戦初めての投了を告げた。直後、首を上下に揺らし残念そうなしぐさを見せた。

 完敗だった。序盤から終盤まで、先手佐々木の巧みな差し回しでペースを握られ続けた。「機敏に来られ、そのまま押し切られた。勝負どころなく敗れたのは残念」と悔しさをかみしめた。

 29連勝中、空前の将棋ブームを作り出した。将棋連盟が作った扇子などの「藤井グッズ」は、飛ぶように売れた。将棋教室への入門希望者も増え、関連玩具、書籍の売り上げも押し上げた。三浦弘行九段の出場停止騒動、コンピューターソフト相手に佐藤天彦名人が連敗するなど、昨年後半から将棋界に漂った負の流れを、中学生が一変させた。

 プロ初黒星となったが、これまでも負けることで成長してきた。5歳の頃から通った「ふみもと子供将棋教室」の文本力雄塾長(62)の「負けたときこそしっかり反省し、ノートに書くこと」という教えを忠実に守ってきた。この対局もノートに書き込み、次局への糧にする。

 ほかの若手棋士とともに、現代将棋の担い手でもある。昨年6月ごろ、先輩に勧められて将棋ソフトを研究に使い始めた。「人間では優劣の判断が難しい局面も多いが、ソフトは評価値が出る。参考になります」。以来、粗さが目立った序盤、中盤が洗練された。持ち前の頭脳に柔軟な吸収力。前人未到の連勝記録がその証明だった。

 竜王戦はこれで敗退だが、王将戦、棋王戦ではまだタイトル挑戦のチャンスが残っている。「連勝はいつか止まるもの。今後も普段通り、1局1局を大切に指していきたい」。将棋界に現れた天才の、次なる挑戦が始まる。【赤塚辰浩】