東日本大震災の大津波で中心市街地が壊滅した岩手県陸前高田市で7日、伝統の夏祭り「うごく七夕」が開催された。

 山から削り出した土を盛ったかさ上げ地区を、雨が降る天候にも負けじと、華やかに飾りつけた各町会の山車が初めて巡行した。震災から6年余り。旧中心市街地でのかさ上げ工事が進み、大型複合商業施設「アバッセたかた」を核にした市街地の再建が始まっている。

 うごく七夕の山車は、和紙を染めて手で折った紙飾り「あざふ」を数万枚使って飾りつける。山車が動くに連れて、あざふを集めて作ったすだれやぼんぼりが風に揺れ、色鮮やかで繊細な風情が地元の人たちに親しまれている。

 この日の巡行は、アバッセたかた前のまだ建物が建っていない土地を起点に、「まちなか広場」の周囲を回るコースで行われた。山車に乗るのは、本番に向けておはやしの練習をしてきた子供たち。町会の人たちが太いロープで山車を曳く巡行の間、笛と太鼓のおはやしが続く。夕方からの夜の部では、山車に明かりが入って紙飾りがほのかに照らし出され、幻想的な美しさが三陸の夜空に映えた。

 震災前からお祭りに関わってきた男性は、かさ上げ地区でのお祭りに「ようやく」という思いと「まだまだこれから」という気持ちが「半々」という。

 男性の仕事用の車には震災の翌年に買ったカーナビが付いている。かさ上げ地区の新しい道を走っていても、ナビの画面は旧市街地。「ここにあの店があったんだ」「ここはあの辺なんだ」と思いながら、盛り土で風景が一変した場所を走るという。懐かしさと同時によみがえるのは震災の日の記憶だ。

 「残念ながら、つらいことしか思い出せません」「お世話になった人たちやご近所さん、同級生、先輩、後輩、仲間。津波が来るほんのちょっと前まで話をしていた人たちが突然、いなくなってしまったんです。なんで自分が助けられなかったのかと、いまでも考えます。もっと何かできたんじゃないか、と」

 男性にとって、「先のことも考えず、無我夢中で走ってきた」6年余りだった。地域社会のよりどころにしたいと守って来た夏祭り、うごく七夕。「高田の町がちゃんとできあがって、新しいコミュニティーができて、みんなが普通の生活に戻れて、その時に震災以前と同じように七夕まつりができるようになって。それで初めて一安心というか、ほっとした気持ちになれると思います」。多くの人が、つらい思い出を抱えながら、震災の痛手から立ち直ろうと歯を食いしばっている。【石井勤】