この1年、東京都の築地(中央区)と豊洲(江東区)の両市場は、政局に振り回されてきた。小池百合子知事(65)が移転を延期してから約10カ月がたった都議選直前の6月20日、「築地は守る、豊洲は活かす」と「両にらみ」の基本方針を打ち出してから、さらに混迷を極めた。知事与党「都民ファーストの会」の発足メンバーでありながら10月、党運営に疑問を呈して離党した音喜多駿都議(34)が総括し、両市場の来年を占った。

 今月20日、豊洲市場の開場日が来年10月11日と正式に決まった。元の開場日から2年近く遅れたことになる。小池氏は20日の会見で、盛り土がなかった問題などを挙げ「立ち止まることで、むしろ混乱を防げた。必要な時間だった」と正当性を強調した。しかし、かつて小池氏のそばにいた音喜多氏は「もはや『損切り』の時期。築地再開発も撤退すべきだ」と市場行政の失政を断じた。来年度予算にある築地再開発検討費5700万円を、来年2月の第1回定例会で「組み替え動議をかけ、ゼロにすべき」と訴えた。

 都民ファとの連携を解消した公明党と自民党はかねて、中央卸売市場は豊洲という考え。となれば動議可決の鍵は共産党だという。同党は築地での市場再整備派であり「築地再開発検討費は『再整備』を否定するもの。ゴールは違えど、目的は重なる」と説得の余地があるとし、動議可決へ意欲を見せた。

 可決した場合、浮いた5700万円は「豊洲の風評被害対策など、使い道はたくさんある」。豊洲市場に食のにぎわいを生み出す「千客万来施設」の事業者、万葉倶楽部(神奈川県小田原市)も、築地再開発で「食のテーマパーク」ができることを警戒し、撤退姿勢をにじませている。検討費をゼロにすれば「彼らも戻ってこられる」。

 小池氏はなぜ追い込まれたのか-。都民ファの中にいた観点から「公明党や私のように、市場移転問題に取り組んでいた人の意見を聞かず、元都顧問の小島(敏郎)さん(現都民ファ政調会事務総長)らの意見を優先したから」と断じた。

 小池氏は、都有地として築地市場跡地を民間に貸せば毎年約160億円の収入が見込めるとし、50年以上の長期借地を再開発の根拠としているが「現実味がない。豊洲市場整備の約4000億円を2回借り換えしなければならず、その利子は降りかかってくる。160億円の貸し出しに失敗した場合、目も当てられない。売却して借金を減らすことが都民のために最優先」と話し「負けが込んでいるから一発逆転に大金をベットする(賭ける)のは、知事がやることではない」と強調した。

 築地再開発検討会議では、築地市場の象徴である「アーチ」を再利用すべきとの意見が目立つが「五輪の駐車場建設にも大きなハードルになる。そんなコブ付きで160億円を得られるとは思えない」と語った。

 小池氏は7月の都議選で自民を大敗に追い込んだ。そのために「自民包囲網」を敷いた結果、「右から左、全部を取り込もうとして欲張った結果、両市場を使うという選択肢を取らざるを得なくなった。政局に走りすぎたのが、1番の失敗だったのでは」と分析した。【三須一紀】

<小池知事就任後の築地市場移転の経過>

 ◆昨年8月 小池氏が就任。移転延期表明。

 ◆同9月 豊洲市場の建物下に盛り土をしていなかったと発表。

 ◆今年1月 豊洲の地下水調査で環境基準の最大79倍のベンゼンを検出したと公表。その後、120倍のベンゼン検出も。

 ◆6月20日 小池氏が豊洲移転・築地再開発の基本方針を表明。

 ◆12月18日 豊洲市場の土壌汚染追加安全対策工事を開始。

 ◆20日 豊洲市場の開場日を来年10月11日に決定。