脚本家倉本聰さん(83)が、「海抜ゼロメートル」からの発想を訴える。アベノミクスによる景気を実感できず、戦争の危機さえはらんでいる日本の現状に、「みんな、ものを考えなさすぎる。上の方からの発想ではなく、もっと下から物事を見て、視野や議論の場を広げなければいけない。海抜ゼロから考える姿勢が必要な時代に来ている」と強調した。
<雪の富良野>
雪景色が見える北海道・富良野のアトリエで、倉本さんの表情は厳しかった。今の日本の状況には暗たんたる気持ちになるという。
「未来は暗いですよ。若い人たちを見ていると、知識はあるけど、知恵がない。ものを考えなさすぎる。偏差値教育、知識至上主義から来ている。偏差値がいいと、いい大学に入って、会社で出世もできる。だから、知識だけを詰め込んでいる。自分で考える知恵が足りないんです」
「海抜ゼロメートル」からの発想を訴える。
「富士山で5合目までバスで行き、6合目まではエレベーターを付けて行こうという発想を脱して、海抜ゼロメートルから考える姿勢が大切です。原発再稼働というけれど、それは電気を作って、夜を明るくして、夜の活動を増やそうという考え。そこには、活動を減らそうという発想がない。これだけ供給できるから、需要と消費を増やせと、拡大してきた。それをどこまで縮小できるかという視点が必要でしょう。上の方からの発想でなく、もっと下から物事を見て、視野や議論の場を広げなければいけない。原発で出るゴミの捨て場が決まらない中、幸せだけを享受している。民主主義は権利と義務の両輪で成り立つのに、権利だけで義務を果たしていない」
<覚悟と責任>
今や誰もが持つスマートフォン規制にも言及する。
「話し合いの場にスマホを持ち込んでいる人を見ると、嫌になる。僕が話している時にいじるのも論外で、怒鳴ったことがある。『スマホで調べてました』というけれど、後でやればいいこと。スマホに伴う問題が多くなる中、使うルール、スマホ法規みたいなものがないといけないと思う」
憲法9条改正などが論議され、戦争の危機がはらんでいる時代になった。
「日本が攻め込まれたら、どうするのか。自分の家が攻撃されたら、戦わざるを得ないでしょう。国のために戦えるかというアンケートで日本は11%と、世界で最下位だった。一番高いのは80%で、中国や韓国は70%あった。国が良くないから、誰も国を愛さず、国のために戦おうとならない。愛国心というと、右翼的な響きがあるけれど、故郷を愛する気持ちが一番の愛国心。政府がやっていることは、変な方向に愛国心を持っていっている気がします。戦争が嫌だという人は、殺されるのが嫌なのか、殺すのが嫌なのか。殺す方が怖いんです。殺すことは残酷だし、トラウマ(心的外傷)を抱えてしまう。そういうことを知った上で反対することが大切です」
倉本さんは、徴兵制ならぬ、徴農制の導入も主張している。
「幼児教育が間違っている。ルール、倫理観を教えないといけない。中学から大学まで12年間、英語を勉強してもしゃべれないような、バカな教育の改革が必要で、大学の無償化には反対です。それよりも、徴農制を実施して、若い人たちは土と向き合うべき。上下関係の中で、しつけも教えながら、農業が食うこと、生きることの根源につながることを学ぶ。海抜ゼロから自分の力で生きる、覚悟と責任が生まれる気がします」【聞き手・林尚之】
◆倉本聰(くらもと・そう)1935年(昭10)1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、59年ニッポン放送入社。63年退社後、脚本家として活動。フジテレビ系ドラマ「北の国から」は81年から21年間続く。84年富良野塾を開き、12年の閉塾まで俳優、脚本家を育成。代表作はドラマ「前略おふくろ様」、映画「駅 STATION」など。昨年は、老人ホームを舞台にしたテレビ朝日系ドラマ「やすらぎの郷」で話題を呼んだ。