柳瀬唯夫・経済産業審議官が、いよいよ八方ふさがりだ。同氏が首相秘書官時代、加計学園の獣医学部新設を「首相案件」と述べたと記された「愛媛文書」が13日、農水省から公表された。安倍晋三首相が否定してきた「加計ありき」の側面がにじむ文書を中央省庁が公表したことで、愛媛文書の信頼性が裏付けられ、「記憶」を根拠に面会すら否定する柳瀬氏の主張は破綻寸前だ。守れないとの判断か、自民党は柳瀬氏の国会招致提案の方針を固めた。愛媛県の中村時広知事も、要請があれば国会招致に応じる意向を示した。
「愛媛文書」が安倍官邸を追い詰めている。農水省は13日、加計学園の獣医学部新設計画に関し、15年4月2日に柳瀬氏らと面会した際の発言を愛媛県職員が記した文書が見つかったとして、斎藤健農相が、会見で公表した。15年4月以降、獣医師法などを担当する部署にいたり、今も在籍する職員に調査し、1人が保有を認めた。前任者に紙ベースで受け取ったという。
作成日付は「4月3日」で愛媛文書の「4月13日」と異なるが、面会翌日に取り急ぎ作成されたもので、内容はほぼ同じ。文書が、関係省庁の農水省、文科省、内閣府に渡った可能性があるとして、官邸が調査を指示。愛媛県が存在を認めた10日から3日後のスピード発表は、野党からも「評価する」の声が出た。
同省は獣医学部新設に特段の権限がなく、「発表へのハードルは低い」(野党議員)。大臣の斎藤氏は経産省出身だが、自民党が野党に転落した09年衆院選で初当選し、国民からの逆風を身をもって体験しており、早期の情報公開に踏み切ったとみる向きもある。
愛媛県だけでなく、中央省庁に「首相案件」が共有されていた意味は大きい。13日の野党ヒアリングに農水省とともに出席した内閣府、文科省の担当者は先を越され、「調査は最終段階」(内閣府)「来週早々をメドに」と、いつになく積極的な姿勢を示した。
記憶を根拠に面会を否定する柳瀬氏には、自民党からも「アリバイを示さないと苦しい」との声が出ている。柳瀬氏は17~20日の安倍晋三首相の訪米に同行予定だが、野党は同行の中止を要求。同行すれば、政府は「柳瀬隠し」と批判される可能性もある。自民党は、柳瀬氏の参考人招致を16日に野党に提案する方針。早ければ来週の実施も見据えるが、野党はあくまで証人喚問を求める方針だ。
首相は視察先の大阪市で「徹底的に調査し、うみを出し切る」と述べたが、重視する訪米への影響は必至。身から出たさびとはいえ、愛媛文書問題は安倍外交にも影響を与えつつある。