平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)女子フィギュアスケート金メダリストのアリーナ・ザギトワ(15=ロシア)に贈られる秋田犬(あきたいぬ)が5月3日に秋田県大館市でお披露目される。日本では忠犬ハチ公で有名な秋田犬だが、この数年はロシアや中国をはじめ世界各国で人気を呼んでいる。かつては来日したヘレン・ケラーにも贈呈された。なぜ世界で秋田犬が注目されているのだろうか?
ザギトワに秋田犬を贈るのは秋田県大館市に本部がある秋田犬保存会。遠藤敬会長(49=衆院議員)は「秋田犬は世界では話題になっていますが、日本では飼育環境などの問題で減少傾向にあるんです。この話題をきっかけに、国内でブレークしてくれればうれしいですね」と言う。
ザギトワは五輪前に新潟で調整した際に、雑誌で秋田犬の写真を見て「飼いたい」と熱望したという。それを伝え聞いた保存会が、メスの子犬を贈ることを決めた。
秋田犬の基本的な色は赤毛、白毛、トラ毛の3つ。遠藤会長は「ザギトワ選手は五輪のエキシビションで着たトラ柄のコスチュームが印象的でした。ひょっとしたらトラ柄を選ぶのでは」と話していた。
遠藤会長は今月5日、アイスショー出演のため来日したザギトワと面会し、贈呈候補の写真を見せた。その中から彼女が選んだのは赤毛。新潟で見た写真と同じ色だった。名前は既に、勝利を意味する「マサル」に決めている。5月3日にお披露目された後、5月下旬~6月上旬にモスクワで引き渡されるという。
以前から秋田犬はロシアで人気だった。2012年、秋田県の佐竹敬久知事が東日本大震災の支援に対するお礼として、プーチン大統領に秋田犬の「ゆめ」を贈った。その後、大統領と「ゆめ」が遊ぶ姿などがたびたびメディアで紹介され、ロシア国内で秋田犬が一躍有名になった。
それ以上に人気になっているのが中国。忠犬ハチ公をモチーフにした、リチャード・ギア主演の米映画「HACHI 約束の犬」(09年)が大ヒットし、一気に秋田犬がブームとなった。保存会会員でブリーダーを務める本瀬純一さん(55)は「最近は落ち着いてきていますが、2年ほど前まではすごかった。まさに『爆買い』状態でした。秋田犬保存会は日本以外に16のクラブがあるのですが、そのうち10が中国です」と言う。米国やヨーロッパでも人気は高いという。
海外とは対照的に、日本国内で秋田犬は減少が続いている。保存会の資料によると、年間の登録数(その年に生まれた犬)は1972年がピークで約4万6000匹。昨年の登録数は6671匹で、ピーク時の15%弱だ。ミニチュアダックスフント、チワワなど狭い室内でも飼える小型犬が人気を集める中で、秋田犬のような大型犬が国内では敬遠されているようだ。
一方で、地元の秋田県では海外でのブームを受けて、秋田犬を観光資源として活用する動きも出ている。今月15日には、犬を見学できる「秋田犬ステーション」が秋田市内にオープン。6月には同市の千秋公園にも見学施設が誕生するという。
本瀬さんは「秋田犬はとにかく容姿が美しい。立ち耳、巻き尾で、骨格構成も真四角でしっかりしている。ハチ公でも知られる通り人間にも従順です。秋田犬の素晴らしさを、もう1度皆さんに知っていただければ」と話した。【田口辰男】
◆秋田犬 秋田県北部原産の日本犬で、1931年に国の天然記念物に指定された。柴犬、北海道犬など日本犬6犬種の中で唯一の大型犬。山岳狩猟犬「マタギ犬」として、古くから人間に飼育されていたとされる。読み方は、秋田犬保存会では「あきたいぬ」としている。
◆秋田犬保存会 秋田犬発祥の地である大館市に1927年(昭2)設立された。大規模な展覧会として年に2回、本部展を開催している。同市の本部には博物室が設けられ、忠犬ハチ公の写真や昔の秋田犬の写真など貴重な資料が展示されている。現在の会員数は約3000人。