愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から、受刑者の平尾龍磨容疑者(27)が脱走した事件は、22日で発生から2週間が経過した。8日夜から潜伏しているとみられる広島県尾道市の向島(むかいしま)では、これまで延べ約1万人が捜索を行ったが、容疑者は見つからず。島内では13日を最後に盗難被害もなく、有力な情報は集まっていない。住民には不安やストレスがたまる一方、「本当にまだ島にいるのか」と疑う声も上がってきている。

 瀬戸内海に浮かぶ小さな島に、脱走犯が逃げ込んで2週間。「いったい、いつになったら捕まるのか」。住民の我慢も限界に近づいている。2万余りの向島の人口に対し、捜査員数はこれまで延べ約1万人。1000軒以上の空き家や深い森が捜索の邪魔をしているとはいえ、ここ10日ほどは容疑者の動向が全くつかめていない。捜査幹部からも「島にいる確証は持てない」という声が出ている。

 ただ現実的に、島から出る方法は限られている。島の外に向かう道路では24時間、フェリー乗り場では営業中は常に検問が行われている。島から対岸まで最も近い場所では約200メートルだが、島北東部に住む男性(69)は「潮の流れも速く、夜中でも漁船がたくさん通る。『絶対に無理だ』とは言い切れないが、泳ぐのはほぼ不可能だと思う」と語った。

 17日からは、島内にある全ての保育園、幼稚園、小中学校に刑務官が配置され、こちらも24時間態勢で警戒に当たっている。島内の高校に通う高校3年の男子生徒は「部活などに特に影響が出ているわけではないが、なんだか物騒な感じ。毎日授業中に捜索ヘリが飛んで、うるさくて集中できない」と、うんざりした表情で話した。

 市の教育委員会は、各校にできる限りの集団登下校を呼び掛けている。教職員や地域の人たちも協力し「絶対に1人にならないように」徹底している。20日までに、脱走事件が原因で体調を崩したり、学校を休んだりした児童、生徒はいないという。

 島から本州へ向かう尾道大橋手前の検問で、交通量が増える朝や夕方は、毎日渋滞ができる。週に1度は橋を渡り、尾道市の市街地の病院に通う女性(85)は「いつもは20分で着くところが、この前は1時間半かかった。とにかく早く、普段通りの生活が戻ってほしい」と訴えた。【太田皐介】