若元春が語るプロ意識と相撲界への思い 「自慢できる父でありたい」33歳の現在地

若元春(荒汐)が、大相撲に向き合う気持ちを飾らない言葉で語りました。

相撲は好きじゃない-。かねて公言してきた言葉の裏には、プロとしての矜持(きょうじ)がありました。

10月5日に33歳になりました。自然体で、自分と向き合っています。

大相撲

「娘が喜んでいました」

優勝した若元春は選士権章を腕に写真に納まる(撮影・小島史椰)

優勝した若元春は選士権章を腕に写真に納まる(撮影・小島史椰)

33回目の誕生日を迎えた日、若元春は全日本力士選士権で初優勝を果たした。

幕内力士によるトーナメントで、今回が83回目という伝統ある大会。優勝旗には双葉山の名前もあった。「祖父の師匠でもあるわけで、尊敬する方でもあるので、名前を連ねることができてうれしいです」と受け止めた。

優勝者に選士権章が贈られる。腕に巻いて写真に納まるシーンは、この大会ならではの風物詩でもある。

幕内力士たちは、この大会後、国技館からバスに乗って秋巡業に出た。

選士権章は、付け人が持ち帰り、若元春の妻と4歳になった長女のもとへ渡った。

その日の夜のうちに、若元春のもとには誕生日より優勝よりもうれしい知らせがあった。

「なんか娘が喜んでいました。僕が直接見せられたわけではないんですけど…。『金メダルだ』って言って喜んでいました」

大相撲一行はこの日から巡業に出て、20日間かけて地方をめぐりながら福岡入り。九州場所後の冬巡業を終えるまで、東京の部屋や自宅には戻れない。約2カ月半に及ぶ「長期出張」になる。

頑張れる要因は何か。

若元春は「なんだろ…。一番は娘じゃないっすか」と言い、こう続けた。

「少しでも娘が自慢できる父親でありたいと思います。あとは、応援してくださる方だったり、親身になって指導してくれる親方衆だったり。そういう人たちの期待とか応援があって土俵に上がっているんで、簡単には負けられないなって思いますけどね」

「ほかの誰かのためになる」

秋巡業では、一門ごとに1人ずつが任命される「風紀係」になった。

実績を積んだ関取が指名されることが多い。若元春もそういう立場になった。

いつからか、角界全体のことを考えるようにもなった。

「もちろん昔だったら自分のことしか多分考えていないと思うんですけど…。どうしてこういうふうになったなんだろうな」

少し考え、言葉をつないだ。

「自分がいる業界が盛り上がらなかったら、自分のためにもならない。自分一人がどれだけ頑張ってもたかが知れているっていうか、みんな一丸となって業界が盛り上がれば、一人一人のプラスにもなる。盛り上げる手伝いができれば、ほかの誰かのためになると思いますし」

テレビなどのメディアに出ることも、大局的に判断した上でのことだ。

2026年夏場所千秋楽 優勝祝賀会会場で記念撮影する、左から父政志さん、次兄の若元春、若隆景、長兄の若隆元、母文子さん(2026年5月24日撮影)

2026年夏場所千秋楽 優勝祝賀会会場で記念撮影する、左から父政志さん、次兄の若元春、若隆景、長兄の若隆元、母文子さん(2026年5月24日撮影)

年を重ね、大波三兄弟の歩みも若いころとは、事情が異なる。

長男の若隆元は5月の夏場所限りで引退し、若者頭に転身した。

三男の若隆景は2度の幕内優勝を果たした実力者だが、7月の名古屋場所前に緊急搬送され、「コンパートメント症候群」と診断された。左太ももの手術を受け、2場所連続で全休。11月の九州場所は十両から再起する。

そして若元春は…。

9月の秋場所は東前頭11枚目で10勝5敗。11場所ぶりに2桁勝利を挙げ、健在ぶりを示した。

模索中の道

かねて、「相撲は好きじゃない」と言ってきた。

この言葉は、できるだけ正確に受け止めたい。「好きじゃない」ことの真意とは-。

「それでいいと思うんすよ。プロってもう嫌になるほど練習して、嫌になるほど、その競技のこと考えなきゃいけないんで。好きでできるっていうのはなかなか難しいっすよ。その道を目指すんだったら、本当に嫌いになるぐらいまでやらないと、極められないですからね。一部の人が好きなままどんどん追い込んでいくみたいなのはあるかもしれないですけど、ほんとに一部ですよ」

若元春も求道者だ。番付や勝敗より、相撲内容へのこだわりは強い。得意とする左四つで、納得のいく相撲が取れたかどうか。本場所中に考えていることは、ほぼこれに尽きる。ように見える。

だからこそ、数字や番付の目標は見えにくい。

貴景勝(右)を突き出しで破った若元春(2024年1月16日撮影)

貴景勝(右)を突き出しで破った若元春(2024年1月16日撮影)

ベテランの域に入りつつある今、何を目標にして土俵に立つのか。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。