パリ屈指の観光名所で、ビクトル・ユゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」で知られるノートルダム寺院で15日午後6時50分(日本時間16日午前1時50分)ごろ、大規模な火災が発生し、高さ約90メートルの尖塔(せんとう)が焼け落ちた。約8時間後、鎮火したものの、再建には10年以上かかる見通し。出火原因は屋根の改修工事とみられ、捜査当局は作業員らから事情を聴いている。

セーヌ川の川岸などで祈りの言葉を口にしながら消火活動を見守っていた数千人のパリ市民や観光客は、火災発生から約1時間後、尖塔が音を立てて崩落すると、「アアッ」と悲鳴を上げた。

1163年に建設が始まり、14世紀に完成した寺院は、ドイツ軍の攻撃を受けた第1次、第2次の両大戦でも破壊や延焼を免れた。しかし、屋根裏付近から出たとみられる火は、「森」と呼ばれるほど骨組みにオーク材がふんだんに使われた構造に火勢を強め、屋根全体に広がった。

約400人による消火活動で、約8時間後の16日午前3時(日本時間同日午前10時)ごろ、鎮火。イエス・キリストが処刑されたときに身につけていたとされる「いばらの冠」など貴重な文化財は運び出され、寺院のシンボルである鐘楼も、3つのバラ窓も焼失を免れた。パイプオルガンも放水でぬれた影響が出る可能性があるが無事と地元紙が報じた。しかし、屋根の3分の2が焼け、再建には10年以上かかる見通しだ。

予定していたテレビ演説を延期したマクロン大統領は現場に駆けつけ「フランス国民にとってひどい悲劇だ。しかし、最悪の事態は免れ、希望は残されている。我々は大聖堂を再建する。何年もかかる事業になる」と述べ、再建のため国内外から寄付を募りたいと語った。グッチやイブ・サンローランなどを子会社に持つ流通最大手ピノー・プランタン・ルドゥートのトップ、フランソワ・ピノー氏は1億ユーロ(約125億円)を寄付する意向。

内務省高官は16日朝の記者会見で、出火原因は依然不明としている。放火の可能性を示すものはなく、捜査当局は屋根の改修工事が失火原因の疑いがあるとみて、作業員らから事情を聴いている。地元紙は、溶接作業から火が出たと当局がみていると報じた。

寺院は1991年に世界文化遺産に登録され、年間約1300万人が訪れる。午後6時45分閉館のため、出火当時、観光客はいなかった。仏メディアは消防士1人が重傷と伝えている。