著名人が次々と抗議のツイートを投稿し、松尾邦弘元検事総長ら検察OBは反対の意見書を提出するなど、異例の展開をみせる検察庁法改正案。森雅子法相が15日、ついに衆院内閣委員会で答弁に立った。政府与党は、混乱を恐れ“失言の美魔女”が答弁する必要のない内閣委を審議の場に設定したが、世論の反発が高まり、法案責任者として森氏を表に出さざるを得なくなった。しかし森氏の答弁は不十分で、この日の採決は見送りに。与党が目指した採決の日程はどんどんずれている。大誤算だ。

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白のスーツに白のマスク。森氏は、質問に立った国民民主党の後藤祐一氏に「森大臣、ようやくお越しいただけました。お待ち申し上げておりました」と迎えられた。与党の「森隠し」作戦が失敗し、答弁の最前線に。しかし、1時間後の委員会は「答えになっていない!」「これを許したら、国会の意味がないよ」と、森氏に怒号が飛び交う修羅場になっていた。

冒頭、14人の検察OBが法務省提出法案に反対の意見書を出した感想を問われたが「さまざまなご意見があることは承知している。引き続き真摯(しんし)に説明してまいりたい」。その後も「真摯に」「丁寧に」を連発したが、首相官邸の恣意(しい)的な判断が入り、検察の中立性を損なうと最も懸念される定年延長の要件については「新たな人事院規則ができましたら、それに準じて定めていきたい」と、10回以上も繰り返した。

「人事院規則ができるまで、委員会で具体的なイメージは出せないのか」という「イエスかノー」の質問にも「人事院になるべく早く作っていただけるよう要請した上で、準じる形で作ってまいりたい」と、回りくどい答弁。こわれたレコードのようだった。

森氏は12日の会見で「法改正と黒川検事長の定年延長は無関係」と説明したが、改正案は、法解釈を変更して強行した黒川氏の定年延長を事後的に正当化するための「後付け」と疑われている。「63歳以降も検事長が居座らなければいけないケースは、黒川さん以外あったのか」と尋ねられた森氏は、「ございませんでした」。野党、傍聴者からは「関係あるじゃないか」と、怒りの声が飛んだ。

与党側は審議再開と採決への切り札で森氏の出席を受け入れ、質疑後の採決を目指したが、そんな環境は吹き飛んだ。野党は与党の採決提案直後に、公務員制度を担当する武田良太行政改革担当相の不信任決議案を提出。改正案採決は20日以降にずれ込んだ。野党は採決阻止へあらゆる手段を想定。安倍政権には思わぬ誤算が続いている。