将棋の最年少タイトル挑戦者、藤井聡太七段(17)が8日、第91期棋聖戦5番勝負の第1局で渡辺明棋聖(36)を破り、タイトル戦の初陣を飾った。現役最強と言われる渡辺の得意な戦型にあえて誘導。相手の得意から逃げずに受けて立ち、白星をもぎ取った。

師匠の杉本昌隆八段(51)が予言した「数年後には他の棋士が手をつけられない存在になる」が現実になりつつある。「怪物伝説」の幕開けに、地元・愛知県瀬戸市も沸いた。

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憧れだったひのき舞台。先手番となった藤井は、現役最強ともいわれる渡辺の得意な戦型となる矢倉(※1)にあえて誘導した。渡辺は4手目、藤井の戦法が意外だったのか、6分、考え続けた。序盤、中盤と藤井は相手の攻勢にうまく対応。流れを引き寄せ、白星をもぎとった。

終局後、取材に応じた師匠の杉本昌隆八段(51)は「真っすぐに踏み込む藤井七段のよさが出た」と、振り返った。小学校時代の藤井にあった「攻め」の姿勢。杉本はかつてこう評した。「相手の得意から逃げたりはしない。これが相手の得意戦法と分かっていても堂々と立ち向かう」。初のタイトル戦の大舞台でも、その姿勢は変わらなかった。しかも相手の得意な戦型に誘導しての“横綱相撲”だった。

対局を重ねるごとに強くなっている。藤井の計り知れない才能と強さには「100年に1人の天才」などの表現で、絶賛する声がある。杉本は愛弟子の進化に「まだ成長期ででき上がっていない将棋」と話す。「作戦が特殊で勝っているわけではない。戦法としては得意なかたちはあるが、比較的、どんな展開でも指しこなせる。現状は他の棋士からみてつかみどころがないのでは」。攻めの姿勢は崩さずに、柔軟に対応し、渡辺とのしびれるような熱戦を制した。

モンスター級の進化を遂げる17歳。「天才」たちが集まる将棋界で、藤井は「怪物」と呼ばれる。進化の度合い、その強さからついた異名だ。かつて杉本はこう予言した。「順調にいけば数年後には他の棋士が手をつけられない存在になる」。その言葉が現実になりつつある。この日、杉本は「夢物語かもしれないが」と前置きした上で、話した。屋敷九段の最年少タイトル獲得、谷川九段の最年少名人、羽生九段の7冠制覇…。「これだけの将棋を見せられたら、私だけではなく、みんなが期待してしまう」。令和の新時代、怪物伝説が静かに幕を開けた。

【松浦隆司、赤塚辰浩】

※1「矢倉」 金、銀、角などで王を守り堅固な城を築く王道の戦法で、「将棋の純文学」とも形容される。プロ、アマ問わず人気。最も難解な戦法とも言われ、矢倉は一手のミスで終わってしまう危険性もある。

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◆棋聖戦 1962年(昭37)創設。初代棋聖は、故大山康晴十五世名人。94年度まで半年に1回開催。95年度から年に1回に。96年度には、当時のタイトル全7冠を保持していた羽生善治が三浦弘行に敗れ、6冠に後退した。タイトル名の「棋聖」は、将棋や囲碁で抜群の才能を示す者への尊称。特に将棋では、江戸時代末期に出現した不世出の天才棋士、天野宗歩を指すことが多い。

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【棋聖戦5番勝負日程】

◆第2局 6月28日、東京・千駄ケ谷「将棋会館」

◆第3局 7月9日、東京都千代田区「都市センターホテル」

◆第4局 7月16日、大阪市「関西将棋会館」

◆第5局 7月21日、将棋会館