富山県南砺市の五箇山を訪れた。世界文化遺産で有名な合掌造り集落は、桜が満開を迎えていた。集落を取り囲む山にはまだ冬の面影が残っているが、所々にピンク色の桜が見える。山の緑と桜のピンク、合掌造りのかやぶき屋根が、どこか懐かしい日本の里を感じさせる。

「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として95年に世界文化遺産に登録された。両手のひらを合わせる合掌に似た形から、合掌造りと呼ばれるようになった。現存する合掌造り家屋は、約100年~200年前のものが多く、古いものは400年前にさかのぼる。江戸時代には養蚕、和紙、火薬の材料である塩硝(えんしょう)造りを加賀藩から奨励されていた。作業場所を確保するために、高層の合掌造りになったと考えられている。

鉄砲の火薬の需要が増え、材料となる塩硝造りが行われた。この加賀藩の軍事機密を守るため、五箇山沿いを流れる庄川には橋が架けられなかった。山と渓谷に囲まれた陸の孤島という地理と、軍事機密がこの美しい景観を、守り抜いたのかもしれない。感染拡大で散策が制限されている集落を、高台から見守った。【滝沢徹郎】