将棋の藤井聡太七段(17)が、28日に行われる第91期棋聖戦5番勝負第2局以降で和服姿を披露するという。プロ棋士にとって、タイトル戦など大事な勝負がかかった時に袖を通す羽織はかまは、いわば「戦闘服」。背広にネクタイで指す時と、和服姿といったいどこが違うのか? 担当記者が実際に羽織はかまを着て、体験した。

  ◇    ◇    ◇

帯が締まるごとに、気分が引き締まって高揚していく。「決戦場」に向かう棋士の覚悟が、わずかではあるが分かった気がした。着付けの先生、林由美子さん(76)はこう表現してくれた。「腹が据わるとか、肝が据わるという感じでしょ。それが和服のいいところなんですよ」。

じゅばん、着物、はかま、羽織と順番に袖を通し、介添えしてもらうこと約20分。にわか棋士になった。手慣れた棋士なら、自分でできてしまうという。

腰周りを締められる分、階段を上がる時だけは少しつらい。それも、はかまの左右の横にある切れ目に手を入れ、少し上げてやれば対応できた。

盤に向かって正座すると、はかまの裾がひろがっている分、スーツに比べて快適と感じた。スラックスは、太もも部分に余裕があっても突っ張る感じがある。

駒を持つ時も、ワイシャツとスーツでは筒状に袖を通すため、手首、ヒジ、肩、脇の動きは制限される。

着てみて分かったが、意外にも和服はこれら関節周りに余裕がある。楽に動かせる。左右の端に置かれた香車を袖で引っかけて落としたりしないかと心配したが、取り越し苦労だった。敵陣に駒を成り込む時も工夫次第だ。座り直して、位置を前後に調整すればうまく手を伸ばせる。

渡辺明棋聖(棋王・王将=36)は左手で右袖をつまみ、右手で駒を持っていた。永瀬拓矢叡王(王座=27)は、右袖を盤側に当てて右手を伸ばしていた。

渡辺流も永瀬流もやってみたが、何度かやるうちに、様になってきた。彼らが身に付けてきた所作に、和室と和装が合う。これが将棋の様式美だろう。

「慣れれば、和服の方が着心地はいいですよ」。棋士会会長である中村修九段(57)の話が理解できた。藤井七段の和服姿での対局、指し手はもちろん、所作も早く見てみたい。【赤塚辰浩】

先手…今回、会場としてお借りしたのは、東京・蔵前にある「榧(かや)寺」の和室。江戸時代早々、浄土宗のお寺として建てられたという。偶然だが、カヤの木は将棋盤の最高級材でもある。「それはもちろん存じております」。寺院の関係者の応手も見事だった。