観光地としても知られる築地場外市場で、地域の観光を研究対象とする大学生が“立ち飲み夜店”を出すイベント「つきよい」を14日実施した。

場所は築地場外の東通りの路地裏の一角。普段は暗い路地なのだが、味も素っ気もない蛍光灯を覆うように和紙をかぶせて淡い光がもれる間接照明のようにした。それだけでおしゃれな空間に早替わりだ。これも横浜市大の学生が考えて、欧州のバルっぽいイメージをつくりあげた。会場設営を担当した高橋香帆さん(21)が何度か現地を訪れて、採寸して考案した。「黄色い照明のイメージを考えていて、なんとかできました」と話した。

企画・運営したのは横浜市大の国際総合科学部国際都市学系地域政策コースの3年生11人。築地場外の「夜間の活性化」をテーマに街づくりを研究してリポートにまとめる。観光学を研究対象にする有馬貴之准教授のゼミに所属する学生だ。

今回は、今年5月から築地場外に足を運んで、築地場外の弱点とされる夜の飲食営業で、立ち飲みバルを開いた場合にどのような準備がいるかという課題に取り組んでいた。学生らの発案でイベントタイトルを「築地」「月」「宵」「ほろ酔い」などのキーワードから「つきよい」と決めた。ちょうど新型コロナウイルスで築地も客足がまばらになっていたころだった。

店は開いているけれど、客が少ないために“取材”する時間をとれて、街のいろいろな店主と会話ができた。そのうちの1人が近江屋牛肉店の寺出昌弘社長(56)だった。

寺出社長 素晴らしい取り組みで古い築地の考えではなくて、学生さんの柔軟な発想が求められている。もうコロナとともに営業をしていかないといけない。築地が動いていない時間をうまくいじって活用してほしいですね。これでうまくいけば、協力店舗を増やして、築地は夜も元気だぞ、ということをアピールしていきたい。

この日はピンチョス(スペインなどでパンにいろんな具材を乗せて食べるおつまみ)を築地の食材を使って8種つくった。調理ができる料理人3人がボランティア参加して協力してくれた。2000円のチケットを購入するスタイルで立ち寄った客からは「築地っぽくないけど、こういう立ち飲みは楽しい」「知らない人でも気軽に会話できるのがいい」「屋外だから通気もいいし、受付時に消毒液を置いてもらってコロナ対策もしてくれるのはありがたい」「こういう夜鳴きイベントを待っていたんだ」「ピンチョス、おいしいです」。ぶっつけ本番のようなイベントではあったが通りすがりのカップルや別の店に飲みに訪れていた人がチケットを購入して、楽しく過ごしてくれた。

今回の広報兼チームリーダーの山田みらのさん(21)は「今回はインスタで知り合いに告知しただけだったから、そんなにこないのかなと思っていたら、意外にもいろんな方々に寄っていただいたのが良かったです」と素直に喜んだ。売上は8万円。初めてのイベントにしては悪くはない。今後の課題について山田さんは「告知の手段も考えたいけど、もっとオーダーをスムーズにしたい」と瞳をくるんとさせてニッコリ笑った。

2021年は東京五輪も開催される予定だ。築地の夜が新たな商売の武器になるための第1歩が踏み出された。【寺沢卓】