プロスキーヤー三浦雄一郎氏(88)が27日、昨年6月に発症した「頸髄(けいずい)硬膜外血腫」を乗り越え、富士山5合目での東京五輪聖火ランナーを務めた。一時は日常生活復帰も危ぶまれたが、“聖火登頂”を目標にリハビリを継続。スキー・モーグルで冬季五輪に連続出場した次男豪太氏(51)の補助も受けながら、力強く歩いてトーチをつないだ。13年5月に世界最高齢80歳で標高8848メートルの世界最高峰エベレスト登頂に成功したギネス記録を持つ鉄人復活の1歩を記した。

標高約3776メートルを誇る世界遺産の富士山。約2300メートルの5合目に立っても、濃霧で山頂どころか雄大な姿すら見えない。だが、三浦氏の心は晴れ晴れとしていた。「ずっと好きな日本のシンボルで、魂のふるさと。40回くらいは登ったし、直滑降もしてきた。オリンピックの聖火を富士山で運べたことは光栄」。リハビリから懸命にサポートしてくれた次男豪太氏に横から支えられながら、右手にトーチ。左手には登山用のつえ。待ち望んでいた約150メートルの距離、時間をかみしめながらゴールした。

64年にはイタリア・キロメーターランセで直滑降の世界最速記録(時速172・084キロ)を樹立。80歳でのエベレスト最高齢登頂を達成するなど、冒険家として各国の山に登って滑降を繰り返してきた世界的知名度から、富士山区間に推薦された。

昨年6月、自宅で目が覚めると背中に激痛が走った。救急車で緊急搬送され、頚髄硬膜外血腫による脊髄損傷と診断。体にまひが残り、寝たきりの入院生活が約2カ月間続いた。これまでもケガや病気は、次の目標設定をして克服。今回は「自分で歩いて富士山で聖火を運ぶ」と力に変えた。

本来なら単走だが、病気によって豪太氏と並走が出来たことは不幸中の幸いでもあった。「息子にも感謝しています」。息子も父の姿に「トレーニングはアスリート並みでした。執刀医も『奇跡という言葉を使わなくてはいけない』とおっしゃるほどの状態。ここまで回復出来る父は、すごい」と感服した。

三浦氏は「夏の五輪にも力の1つになれたらうれしいという思いがありました」。豪太、長野モーグル金の里谷多英、14年ソチのスノボパラレル大回転で銀メダルの竹内智香ら、冬は教え子が活躍してきたが、夏も親子で五輪の機運を高めた。「次の目標は富士山に登れたらと思います。新しいスタートになる。それが出来たら(欧州最高峰の)エルブルス(5642メートル)」。90歳も間近に迫るが、挑戦心はさらなる高みを目指している。【鎌田直秀】

◆27日の聖火リレー 山梨県2日目は、ブドウなどの果樹園、富士山5合目、河口湖周辺などを巡った。鳴沢村でスピードスケートで冬季五輪5大会連続出場の岡崎朋美氏、富士吉田市では18年平昌(ピョンチャン)五輪女子パシュート団体金メダルの菊池彩花氏らが登場し、プロレスラー武藤敬司は最終走者を務めた。28日は神奈川県へ。公道開催を全面中止し、トーチキスでつなぐ点火セレモニー形式で3日間実施される。タレントつるの剛士、84年ロサンゼルス五輪体操男子個人総合とつり輪で金メダル獲得の具志堅幸司氏らが参加する。