自民党総裁選は26日、投開票され、安倍晋三元首相(58)が党史上初めて、2度目の総裁の座に返り咲いた。1度目の投票で2位も、国会議員による決選投票で石破茂前政調会長(55)を逆転。脱派閥を打ち出したはずが、結局派閥に後押しされて勝利を得た。体調不良を理由に、突然政権を投げ出して5年。安倍政権のキーワード「再チャレンジ」を、自ら体現した。党人事では石破氏を要職で処遇する考えを示したが、「第2次お友達内閣」となれば、批判は早速再燃する。

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「懐かしい気持ちはまったくない。責任の重さを感じます」。第25代総裁に選ばれた安倍氏は26日夕、党本部4階の総裁室に入った。5年ぶりの総裁のいす。腰掛けると、気を引き締めた。序盤は石破氏や石原伸晃幹事長に先行され、「第3の男」と呼ばれた。負ければ政治生命の危機だったが、領土・領海問題での厳しい姿勢と知名度の高さで、支持を拡大。安倍政権時代の「再チャレンジ」を地でいく、勝利となった。

謝罪と反省のスタートだった。07年9月12日、衆院本会議の代表質問直前に突然首相を辞任し、自民党の政権転落の契機を招いた。「心からおわびしたい」。会見や演説では、政権投げだしを謝罪せざるを得なかった。辞任の理由だった潰瘍性大腸炎を「画期的な新薬で回復した。発病以来なかったほどいい状態」と強調。この日の会見では「挫折を含め、さまざまな経験をした。(辞任の)責任が消えることはないが、首相として政権を担った経験を生かして、難局に立ち向かいたい」と、強調した。

ただ安倍政権時代の「経験」には批判も多い。人事がその1つだ。盟友や親しい議員でまわりを固め、「お友達内閣」とやゆされた。この点を指摘され「自分の理念に賛成してくれた同志を、多く配置した。誤解を招いて反省している」と釈明した。新しい党体制は「垣根をすべて外し、開かれた形で人材を活用したい」と、若手も登用する意向を示した。

その人事で、さっそく課題に直面する。決選投票で、「古い自民党」と指摘してきた派閥の支援もあり、決選投票で、安倍氏の2倍近い党員票を獲得した石破氏を下した。「党員の思い=石破新総裁」と反対の結果。「これが『ザ・自民党』だ」(中堅議員)と、旧態依然&重鎮支配のたまものといえる安倍総裁に、厳しい視線もある。石破氏の存在を無視できず、安倍氏は「党員票が過半の石破氏、議員票が過半の私が協力し、強力な態勢をつくる」と宣言。石破氏を幹事長などの要職で処遇し、今日27日にも新体制を決めるが、顔触れ次第では、新たな党内対立の火種が生まれる。

 「新しい自民党をつくるため、先頭に立つ使命を与えられた。胸に刻み、政権奪還へ全力を尽くしたい」。安倍氏は、谷垣禎一総裁が野田佳彦首相と交わした「近いうち解散」を実現するため、早期の衆院解散を求める考えを強調した。政権を奪還すれば、吉田茂氏以来64年ぶりの首相返り咲き。その前にまず、野党第1党党首としての迫力が試される。【中山知子】