音だけで商品やサービスの魅力を伝えるラジオCMには、独特の世界がある。俳優の高橋ひかる(20)は、広告業界の団体が優れたCMを表彰する「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」ラジオ&オーディオ広告部門で、今年度の審査委員を務めた。ラジオ愛全開で、目指すは「ラジオスター」と公言する高橋が「改めて知った」というラジオCMの魅力とは。【取材・構成=秋山惣一郎、遠藤尚子】

-ラジオCMの賞で審査委員を務めました

「ラジオは大好きなんですけど、CMをちゃんと聴いたことはありませんでした。今回、何百作もの応募作をすべて聴きまして。新鮮でしたね。30秒とか限られた時間、しかも音だけという条件で、いかに情報を伝えるか。航空会社のCMでは、機内の音をそのまま使っていました。素早く閉じることができる脚立のCMは、音だけでスピード感を表現していた。改めてラジオCMって、こんなにおもしろいものがたくさんあるんだって」

-審査では、回転すし店「かっぱ寿司」のCMを強く推していました

「割と長いCM(120秒)なんですが、最後の一皿を分け合って食べるドラマ調のところが、カップルのすてきな日常だなという感じで聴いてたら、急にミュージカル調に変わっていくところが楽しい。歌詞もチャーミングでかわいいと思いましたし、メロディーも親しみやすい。つい歌いたくなっちゃう感じが好きです。私たちってTikTokみたいな、短い映像と音楽を組み合わせたものに親しみがあって、映像がないと寂しいかなと思ってました。でも、この曲を使ってTikTokで撮りたくなるようなウキウキ感があって、すごくいいなと思いました」

-他にも音楽が楽しい作品を評価されていました

「ワクワク感を大切にして、もう1回聴きたい、つい歌っちゃう、口ずさんじゃうフレーズとか、音声CMならではの魅力に注目しました」

-自身はCMに出演する側だが、審査を通じて制作者側の視点を持てた

「私は、映像でも何でも、作品を作る側のメッセージや意図をどう受け取って咀嚼(そしゃく)して、表現するかが大事だと考えています。でも制作者側の視点を持つことは難しくて、どういう意図で作ってるんだろう、というのは、なかなか普段、お話しする機会がなくて。(広告会社のクリエーターやラジオ局のプロデューサーら)他の審査委員のみなさんの講評を聞いて、なるほどと思う視点、自分では気づかなかった視点が新鮮でした」-今日は、自身がパーソナリティーを務めるラジオ番組の収録後の取材です。以前の放送で「体が動いちゃう」と言っていた。ブース外から見ていたが、実際にそんな感じですね

「すごい動き回りますね。立ち上がっちゃうこともあるし、ボディーランゲージ大きめで。伝えたいことありすぎて、気持ちが動作にあふれちゃってます」

-ディレクター泣かせですね

「イヤー! 泣かせちゃってるかもしれません。マイクに手が当たっちゃったりするんで気をつけてますけど。ごめんなさい」

-番組を始めてどのぐらいですか

「1年ちょいぐらいですね。まだまだ勉強中ですがフリートークに近いこともできるようになったので、もっと勉強して、ここでこういう話、こういうテーマ、みたいに(自在に)話せるようになったら、こっちのもんです」

-それがまさしくラジオスターだと思います

「がんばります!」

◆高橋ひかる(たかはし・ひかる)2001年(平13)、滋賀県生まれ。14年、第14回全日本国民的美少女コンテストでグランプリ獲得。ドラマ、映画、CM、バラエティーなど幅広く活躍する。ラジオ好きを公言しており、20年10月から「高橋ひかる Highway Runway」(JFN)のパーソナリティーを務める。22年は、WOWOWオリジナルドラマ「青野くんに触りたいから死にたい」のヒロイン、映画「おそ松さん」(東宝)ではトト子を演じる。

◆ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS 広告会社や制作会社、広告主らでつくる業界団体のACCが1961年(昭36)年から開催している。テレビCMなどが対象のフィルム部門、ラジオ&オーディオ広告部門などがある。今年度は、10月27、28日に開催された。ラジオCMは382本がエントリー。総務大臣賞/ACCグランプリは、大日本除虫菊「虫コナーズ」のCM「虫コナーズで名言を」(夏が来る、去年のあなたなど全6本)が獲得した。

<ラジオCMの現状と今後>

ラジオCMは、どんな特徴があるのだろうか。

大手広告会社、電通のメディアプランナーでラジオ担当20年という中島正雄さんは「音だけで表現するラジオCMだが、画(え)を思い描き、原稿にする能力が求められます。自分の中にしっかりしたイメージを持っていないとできません。この能力は、動画のCMを作る上でも必要で、ラジオのCM作りは、クリエーティブ脳が鍛えられます」と話す。

長さは20秒、40秒、60秒、長いものだと120秒などさまざまなサイズがある。中島さんは「賞を狙う作品は長いものも多いが、中心は20秒。言葉と音楽、効果音に加えて、いかに間を取るかが大切です。無理に20秒に収めようとせず、適切な間を取る。そのへんのセンスがないと、業界では生き残れません」と指摘する。

一流クリエーターが、存分に使っても、制作費は数百万円の単位。テレビCMの10分の1程度だ。制作期間も短く済むため、若手クリエーターが試行錯誤しながら、CM作りの基礎訓練を積む場となってきたという。

近年は、スマートフォンでラジオを聴くアプリ、ラジコが、ラジオCMの世界を変えつつある。スマホの位置情報を使って、時と場所、人によって、CMを出し分けることが可能になった。従来のように不特定多数に向けたものではなく、より個人に訴求するCMが求められている。ラジコの登場で、デジタルの世界で用いられるマーケティング効果検証の手法が使えるようになり、広告主側の期待も大きいという。さらに、ラジオで商品やサービスを知ってもらい、インターネットやSNSに誘導、購買につなげる「広告の認知獲得の先頭打者」(中島さん)としての役割も期待されている。