先月亡くなったばかりの石原慎太郎氏の典子夫人が亡くなった。

記者にとっては、慎太郎氏の夫人というよりも、石原伸晃前衆議院議員(64)と俳優石原良純(60)の母親のイメージが強い。

今から32年前、社会班担当から芸能班へ移って“伸晃番”から“良純番”へと替わった。伸晃議員から「弟をよろしくね」と言われて「俳優石原良純」をインタビューするために東京・田園調布の自宅を訪ねた。1990年(平2)9月30日のことだ。

まだ少し暑さの残る中、庭のテーブルに腰掛けて、良純にあれこれと話を聞いた。「おじさん(裕次郎)には感謝してるけど“伸晃の弟”って言われるのは、ちょっとね」と苦笑いする良純を心配そうに見ながら、飲みものを出してくれたのが典子さんだった。無言で、笑顔を浮かべながら同世代のバカ話をする良純と記者を見守ってくれた。

帰り際に玄関で典子さんにあいさつしていると、そこへ慎太郎氏が帰ってきた。慎太郎氏を紹介してくれて、自分の車を運転して帰る記者を「お気を付けて」と送り出してくれた。慎太郎氏の夫人、芸能人の母親というより、息子の友達を心配するお母さんの顔を見せていた。最後まで“暴走老人”を貫いた慎太郎氏に、選挙だ、役者だと突っ走る息子たちを、そっと陰で支える役割だった。

冥福をお祈りします。【小谷野俊哉】