いったいこれは誰なんだ!? 東京・神楽坂にぽつんと設置されたカプセルトイ「赤の他人の証明写真」(300円)が若者を中心に人気を集めている。自動販売機には昭和時代を少年少女とともに駆け抜けた玩具メーカー「コスモス」の字も。個人情報の保護やコンプライアンスが優先される令和で、時代と逆行する商品。考案者の寺井広樹さん(41)に話を聞いた。

   ◇   ◇   ◇

「イケメンよりもおじさん狙いで来る人が多いです」。SNS上で人気が沸騰し、3月26日に設置されたカプセルトイは、わずか1カ月で約2000個が売れた。売上額は約60万。1日に約100個売れる日もあるといい、2台しかない自販機はほぼ毎日補充作業が行われる。「九州から買いに来る人や、コンプリートするために1万円を使う人がいます」。用途は人によってさまざまだといい「若い女性が携帯電話のクリアケースに、おじさんの写真を挟んでいました」と笑った。見ず知らずの他人の証明写真がなぜ話題を呼んでいるのか。

「この10人はいったい誰なんですか」と寺井さんに聞いた。「小学校の教頭先生や大学生、パートの主婦などで、知り合いばっかりです」とあっさり答えてくれた。ただ「誰なんだろうと想像する方が面白いですよ」と、個々の情報は教えてくれず、ネタバレは厳禁だった。モデルの選考基準については「物語が見えそうな人」。実際に就職活動や転職活動に使っていた写真を起用したという。当たりの証明写真には本人直筆の名前が記入されている。

商品化に至った経緯について寺井さんは「マスク生活の中で人の顔を見る機会が減った中、『盛る』『映える』ばかりのSNSにウンザリしていた」と語り、その上で「素顔に近い証明写真は、特有な魅力があると思いました」と続けた。リアルにこだわり、AIの写真などは構想から外していた。

「攻めた商品」と自負する赤の他人の証明写真は、4月28日から第2弾を売り出し、群馬県高崎市や埼玉県川越市でも展開。第2弾には自分をモデルに使って欲しいとの売り込みがあったという。寺井さんの想像を超えた反響について「今の時代は個人情報やコンプライアンスにうるさいし、皆さんの中に鬱屈(うっくつ)としたものがあったんじゃないかな」と分析した。

自販機上部の「コスモス」の文字がレトロな雰囲気を出している。70~80年代にカプセルトイ界で一世を風靡(ふうび)した玩具メーカー「コスモス」。本社は既に倒産したが、コスモスファンの横島拓也さん(42)が、当時の支店長が独立した会社から業務形態を引き継ぎ、20年に「京葉コスモス」を設立。証明写真のカットや、商品を詰め替える作業は、横島さんやスタッフなどが協力し、5人ほどで行っている。横島さんは「コスモスの魂を引き継げて良かった」と笑顔を見せた。【沢田直人】

◆寺井広樹(てらい・ひろき)1980年(昭55)6月8日、神戸市生まれ。能動的に涙を流すことで、心のデトックス図る活動「涙活」や、夫婦の再出発の決意を誓い合う「離婚式」を手掛ける実業家。経営がまずいことから名前をつけ、銚子電鉄(千葉県銚子市)と開発したスナック菓子「まずい棒」は350万本以上の大ヒット。87年に放送された特撮「おもいっきり探偵団・覇悪怒組(はあどぐみ)」(フジテレビ系)のファン。