山口県北部の阿武町(あぶちょう)が4630万円を誤って振り込み、同町の無職、田口翔容疑者(24)が電子計算機使用詐欺容疑で逮捕された事件で、花田憲彦町長が24日、町内で会見し、現時点で計4299万3434円を法的に確保したと明らかにした。

容疑者の代理人弁護士によると、容疑者の宇部市内の指定口座には4月8日、町から臨時特別給付金10万円に加え、誤って4630万円が振り込まれた。口座からは誤振込当日から同18日(19日付)まで、34回にわたり4633万1922円が出金。残高は6万8743円になった。出金先はデビット決済と決済代行会社3社。デビット決済には計340万1071円、A社には計3592万4691円、B社には300万円、C社には400万円が出金されていた(※別に振込手数料が計6160円)。

町の代理人弁護士によると、出金先の決済代行会社3社の口座は、1つの銀行に2社、別の銀行に残り1社があった。町側は、税金の滞納者に対する国税徴収法などに基づき、回収に乗り出した。容疑者と会社には委任契約があり、公序良俗に反する取引とし、会社の口座を容疑者の口座とみなして、4月27日に3口座の差し押さえを申し立てた。2銀行にも、疑わしい取引として金融庁への届けや、3社の情報提供などについて対応を迫った。3社の事務所などが判明すると、容疑者逮捕翌日の5月19日に東京の3社の事務所に行き、差し押さえ、取り立て命令の書類を渡したところ、20日に3社から町の口座に入金があった。町の代理人は「なぜか、満額払ってきた」と話した。

誤振込先の銀行に対しては、当日の4月8日夕に警告書を速達で送り、同28日に残高6万8743円を差し押さえていた。残るデビット決済の計340万1071円は、現時点で回収できていない。代理人は「どう手続きをしていくか検討していく」と話した。

町は5月12日に、全額返還と弁護士費用や調査の実費など含め約5116万円を求めて提訴している。容疑者側が誤振込分の全額返還を受け入れる「認諾」の手続きをしていた。町の代理人は、これも最終的に町の法的確保につながったと指摘した。なお容疑者側は、弁護士費用や調査の実費の請求については早期認諾にはしなかった。容疑者の代理人は「本人が負担すべきなのか、確認の上で対応を決める」としている。

容疑者は逮捕前に「海外の複数のオンラインカジノで全部使った」などと説明していたという。容疑者の代理人も「使ったと言っている」、「何か財産的価値のあるものが手元に残っている状態ではないと聞いている」などと説明している。容疑者の口座から決済代行会社に移動した金はどのような状態なのか、実際にカジノで使ったのか、残金の有無や所在なども含めて、なお疑問は残る。町の代理人は、分からないという。

容疑者はまた逮捕前に「少しずつでも返していきたい」とも話している。町が9割超の回収を確保したことで、容疑者が実際に返済しなければならない金額はどうなるのか。また、決済代行会社はどんな意図で町に入金したのか。仮に容疑者の金が既に、決済代行会社からカジノ側に渡っていた場合、決済代行会社は損失をこうむった形にもみえる。関係者からは「その場合、会社が容疑者に請求する可能性もあるのではないか」との指摘もある。

今後の県警の捜査などで、どこまで解明されるか、注目される。

一方、花田町長は会見で、「発端は町のミス」とし、町民や容疑者に対し「改めておわび申し上げたい」と謝罪。「できるだけ解明ができ、町民にしっかり説明できれば」と話し、公金の全額回収へ全力を尽くしていくと繰り返した。また「システムや事務、チェック体制の見直しなどを行い、二度とないよう務める」といい、自身を含めた処分については「厳正に対処するのは当然」とし、当面は回収に全力を尽くし、時期がくれば実施、公表するという。

町長は最後に「直接関係のない職員、出納室長の顔写真がネット上にさらされ、心ない書き込みが拡散され、心を病む状況になっている」「役場においても、公表以来1日数百本の電話が鳴り続け、職員はチームを組んで真摯に話を聞き対応しているが、中には1時間2時間の長電話、あるいは同じ人が何回も電話をかける、罵詈雑言を浴びせられることが多々あり、職員は本当に疲弊を極めている」などと現状を説明。「元の原因をつくったのが自分たちと言われれば返す言葉はありませんが、節度ある対応をお願いしたい」と訴えた。