次世代型の小型電動モビリティー(移動手段)市場に国内メーカーが本格参入する。ホンダの社内企業制度からスタートしたベンチャー企業ストリーモは1人乗りの3輪車「ストリーモ」を6月13日から国内一般向けに抽選販売を開始。ヤマハ発動機やカワサキも2輪市場で培った技術力を生かした独自のモビリティーを開発し、来年度以降の市販を目指すなど動きを加速させている。

<ホンダのベンチャー「ストリーモ」>

ホンダ発のベンチャー企業が生み出した小型電動モビリティーは安全性や操縦性にこだわった3輪モデルだった。一見すると電動キックボードだが、走行安定性を比較すると別格。独自開発したバランスアシストシステムと3輪によって停止時も直立して倒れない。試乗すると路面の段差もしなやかにクリアし、石畳の走行でもハンドルが取られるなどの不安感がない。前輪駆動で小回りも利く。

段差に対して斜めに進入しても2つの後輪がグリップして乗り越えるために挙動が大きく崩れない。電動キックボードなどでは同様のシーンで後輪がスリップし、バランスを崩して転倒の恐れもあったが、ストリーモは安定していた。折りたためば乗用車に収納可能なサイズでレジャー用などの利便性も高そうだ。

ホンダ時代に2輪車の研究開発を担当していたストリーモの森庸太朗代表取締役CEOは「操縦性、安定性を最も重視しました。人が乗るにあたって気持ち良く乗れる乗り物にしたい。乗ることがストレスになってはいけないし、だからこそ安全、安心が担保できる」と自信を込めた。特に停止時に安定直立する機能について森氏は「足を使って止まる、ということがなく、止まる瞬間までブレーキに集中できる」とした。

同社では6月13日から市販限定モデル(税込み価格26万円)300台のネット予約を開始したところ「予想を大きく上回る申し込みを受けている」という。来年には海外市場への展開も計画している。

現行法規では1種原動機付き自転車となり、原付き免許が必要でナンバーを取得してヘルメット着用、車道のみの走行となる。改正道交法は24年5月までに施行されることが閣議決定しており、特定小型原動機付き自転車に分類された車両は時速6キロ以下で歩道走行も可能とされる。

ヤマハ発動機と日本自動車連盟(JAF)は6月8日、低速モビリティー事業に関する協業契約を締結するなど、小型電動モビリティー市場はさらに拡大、進化しそうだ。【大上悟】

<ヤマハ「トリタウン」>

ヤマハ発動機は次世代型モビリティー「トリタウン」を東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された「第9回イベント総合EXPO」(6月29日~7月1日)に出展した。トリタウンは電動3輪の小型電動立ち乗りタイプで、2015年に社内のアイデアコンペに寄せられた発想を元に19年の東京モーターショーに参考発表され、来年度中の市販を目標としている。

トリタウンは前輪が2輪で同社が発売している3輪バイクの技術などが採用されており、安全面や操縦性に配慮されている。全国の公園などで実証実験を重ね、市場投入へ向けた最終段階にある。「実証実験を体験した方々から売り出すのであれば、ぜひ欲しいという声をいただいた。非常に楽しい乗り物ということでネガティブな意見は驚くほどなかった」(担当者)。法改正をにらみながら「今のところクローズドの園内などを走るレジャー用の乗り物として想定している」としている。

<カワサキ「ノスリス」>

川崎重工の傘下で2輪事業を手がけるカワサキモータースは小型電動3輪車「ノスリス」を事業化し、来年春の市販を計画している。2021年にクラウドファンディングでフル電動仕様32万円、電動アシスト仕様27万円(いずれも税込み)を限定で計100台先行販売したところ即日で完売した実績がある。

フル電動仕様車はスロットルレバーで速度を調節する電動モビリティーで普通自動車免許が必要だが、電動アシスト仕様車は免許不要だ。開発陣が自転車をベースに転倒しない安全性を高めた小型電動モビリティーとして市販を目指している。