36人が死亡した19年の京都アニメーション放火殺人事件が18日で発生から3年を迎えた。絵を仕上げる「着色」のプロとして約20年勤めた津田幸恵さん(当時41)を亡くした父伸一さん(72)の心に刻まれた深い悲しみは、癒えることはない。現場となった京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオ跡地で行われた追悼式には参加しなかった。

兵庫県加古川市の自宅で取材に応じた伸一さんは「3年だからといって、何かをすることもないし、節目なんてない」と心境を語った。18年に妻を亡くしてから体調を崩した伸一さんを気遣い、幸恵さんは実家にたびたび顔を見せていた。あの夏、娘は、父が切らした宇治茶を持ってきてくれるはずだった。

「家内が亡くなった後、幸恵が支えてくれた。2人も続けて…。しんどい人生や」

焼け跡で見つかった幸恵さんの愛用のかばんなど遺品はすべて処分した。目にすると、事件のつらさばかりがよみがえるからだ。「家内の使っていたものをゆっくりと捨てていくはずが、順番が逆になってしまった」。最近、やっと妻の遺品の整理を始めた。着物は知り合いの農家に頼み、焼いてもらうつもりだ。

殺人の罪などで起訴された青葉真司被告(44)の公判のメドが立っていないことについて「どうでもええ。始まるときは始まる」とと語った。

青葉被告は「小説を盗まれた」と京アニへの恨みを話したとされる。昨年12月、25人が犠牲になった大阪・北新地のビル放火殺人事件、安倍晋三元首相の銃撃事件、いずれも中高年の男が、誰かや何かに恨みを募らせ、事件を引き起こした可能性が高い。

「狂気やな」。伸一さんは目を閉じ、そうつぶやいた。【松浦隆司】