将棋の最年少5冠、藤井聡太王将(竜王・王位・叡王・棋聖=20)が羽生善治九段(52)の挑戦を受ける、第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第3局が28、29の両日、金沢市の「金沢東急ホテル」で行われ、先手の藤井が95手で羽生を破った。巧みな攻めで“羽生マジック”を封じ込めた藤井は、対戦成績を2勝1敗とし、初防衛、5冠堅持に前進した。2敗目を喫した羽生は、前人未到のタイトル100期を目指す。第4局は2月9、10日、東京都立川市「SORANO HOTEL」で行われる。
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対局場となるホテルの和室宴会場「友禅」の窓からは雪景色が見える。世代を超えたスターが初めてタイトルを争う歴史的な第3ラウンドは、後手の羽生が雁木(がんぎ)を選択。江戸時代に編み出された戦型を現代風にアップデート。不慣れな形にも藤井は正面から受けて立った。
「上部脱出をなんとか阻むことができたので、感触は悪くないのかなと思っていた」。2日目午前、羽生の入玉含みの上部への脱出に、藤井は4筋に歩を打つ3手1組の強烈な攻めを見せ、羽生玉を下段に押し戻すことに成功した。
その後も激しい攻防が繰り広げられたが、的確な指し手でリードを広げ、終盤に常識にとらわれない一手で形勢をひっくり返す“羽生マジック”を封印。最後は上下から羽生玉を挟み撃ちする形で午後4時10分に投了に追い込んだ。
終局時間の午後4時10分は藤井の2日制7番勝負の歴代2位となるスピード決着。藤井の過去の王将戦7局では最速決着となった。持ち時間を1時間以上、残しての快勝にも「どういう構想で指すのか、非常に難しく、分からないことが多い将棋だった」と振り返った。
最年少など記録ずくめの20歳だが、これでタイトル戦番勝負は50局(千日手3局を含む)に到達。いまだに番勝負では連敗がなく、過去11回のタイトル戦を全て制している。タイトル戦の成績は41勝9敗、勝率8割2分は驚きの数字だ。番勝負以外の対局も含めた先手番の連勝を「22」に伸ばした。
2月5日からは渡辺明棋王(名人=38)に挑戦する棋王戦5番勝負が始まる。「6冠ロード」とともに王将戦を戦うことになる。「第4局まで2週間ぐらい空き、その間に他の対局もある。状態を維持して臨みたい」。第4局は後手番となるが、一気に初防衛へ王手をかける。【松浦隆司】
◆雁木 将棋の囲いのひとつ。鳥の雁の群れが斜めにジグザグに連なって飛ぶ様子に見立てたことが名前の由来とされる。自身の玉の前に銀や金を配置するのが一般的。手数がかからず、攻守に柔軟性があるため早めに仕かけることができる。