5日に開幕する第81期名人戦7番勝負(ホテル椿山荘東京)で、将棋の最年少6冠、藤井聡太竜王(王位・叡王・棋王・王将・棋聖=20)は渡辺明名人(38)に挑戦する。この対局に勝てば史上最年少名人、7冠の偉業達成となる。藤井は小学4年のとき自己紹介カードに「名人をこす」と記した。そこには恩師らの思いがある。3日から「名人をこす」と題し、直前連載3回をお届けします。

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ラジオのパーソナリティーの絶叫に近い声が響いた。「聡太くん、聡太くん…」。名前を連呼する声が最後に裏返った。

13年1月、小学4年の藤井聡太が地元・愛知県瀬戸市のコミュニティーFMラジオ局「ラジオサンキュー」に登場した。12年9月、プロ棋士養成機関「奨励会」に入会したばかりの少年は母とともにスタジオに入ってくると、控えめな笑顔を見せた。「将棋のすごい子がいるらしい」。同局では、その世界で将来、活躍しそうな「原石」をゲストに招き、質問をぶつける企画コーナーがある。

-将棋をやろうと思ったきっかけは

藤井 おばあちゃんに教えてもらって面白かったので。

-日本将棋連盟の奨励会に入会したってことは、ズバリ、将来の夢は

藤井 名人を超えたいです。

愛らしい声でズバリと放った「名人超え」にパーソナリティーの声が裏返り、「名人を超えたい?」「聞きました?」と声を上ずらせてリスナーに呼びかけ、「名人を超えたい。もう…」と絶句した。

パーソナリティーを務めていたのは瀬戸市の市議会議員、水野良一氏(56)。当時の驚きは、いまでも鮮明に覚えている。「小学4年生ですよ。奨励会に入会したばかりの小学生が、プロ棋士になりたい、名人になりたいという目標を掲げるなら、分かります。それが『名人を超えたい』ですよ。初めて聞きました」

多くの「原石」のインタビューの中でも、最も衝撃度は大きかった。一方で少年の常識を覆す言葉に「もしかしたら…」と感じたという。「日常生活の質問には返答に困るところがあったが、こと将棋に関しては、しっかりと考え、答えてくれた。もしかしたらこの子は目標として“名人を超える”をイメージしているのではないか…」。

ラジオでの「名人超え」を伝え聞き、「あっ、返事したな」。そうつぶやいた人物がいた。(つづく)【松浦隆司】