岸田文雄首相は29日、官邸で取材に応じ、親族を招いた首相公邸での忘年会開催を「週刊文春」に報じられた長男の岸田翔太郎首相秘書官(32=政務担当)を6月1日付で交代させると発表した。事実上の更迭。

首相は「公邸の公的なスペースにおける昨年の行動が、公的立場にある政務秘書官として不適切。けじめをつけるため交代させることとした」と述べた。自身の責任については「当然、任命責任は私自身にあり、重く受け止めている」と話した。

首相は岸田内閣発足から1年となった昨年10月、翔太郎氏を政務担当の秘書官に就任させた。身内をそばに置くとともに、翔太郎氏を将来の自身の後継者と見据え、経験を積ませる目的もあったとされる。

ただ翔太郎氏は今回の問題以外にも、今年1月の首相の欧米外遊時に大使館の公用車で観光やおみやげ購入に回った疑惑が「週刊新潮」に報じられた。首相秘書官の束ね役でもある政務担当の秘書官に就くには年齢も若く、一般企業勤務や首相の秘書経験はあるものの経験不足が指摘され、常に「首相秘書官の資質」が問われてきた。

岸田首相は1月の「おみやげ購入」報道の際はそのまま続投させ、今回も先週の野党の更迭要求には応じなかった。ただ公邸は首相や家族の住まいである反面、危機管理上重要な場でもある。そんな場所で緊張感のない忘年会写真の数々が報じられ、野党の批判だけでなく自民党からも厳しい声が出ていた。

首相が今回も続投させれば「身内に甘い」「親ばか」などの批判が、さらに強まり、首相を直撃するのは避けられなかった。

実際、ここ数日で発表された報道各社の内閣支持率も、首相が結果に胸を張ったG7広島サミットの直後であるにもかかわらず、数字が横ばいだったり下落した調査が複数あった。サミット終了後に報じられた翔太郎氏の問題が「壁」となって、支持率に影響した可能性が、永田町関係者の間では指摘されている。

6月21日の通常国会会期末まで1カ月を切り、今後は与野党の緊張関係もさらに高まる。政権にとっての不安要素を早期に取り除く必要にもかられ、岸田首相は、「かわいがっている」(自民党関係者)とされる翔太郎氏という身内を切る判断に、かじを切らざるを得なかった側面もあったとみられる。【中山知子】