映画も大ヒットした「人間の証明」などで知られるベストセラー作家・森村誠一(もりむら・せいいち)さんが24日午前4時37分、肺炎のため都内の病院で死去した。90歳。

70年代に映画などとメディアミックスした社会派ミステリーで一大ブームを巻き起こしたほか、旧日本軍の第731部隊を描いたノンフィクション「悪魔の飽食」など、生涯で400冊を超える著作を生み出し、その多くがドラマ化されるなど庶民から親しまれた。埼玉県出身。家族葬を行い、後日お別れの会が開かれる予定。

    ◇    ◇    ◇

森村さんは生涯にわたって精力的に執筆し続けて市民を楽しませ、時に社会に鋭く問題提起した。青山学院大英米文学科卒業後、ホテルで働きながら、作家を目指してエッセーなどを執筆。退職後、69年のホテルを舞台にした本格ミステリー「高層の死角」で江戸川乱歩賞を、73年には「腐蝕(ふしょく)の構造」で日本推理作家協会賞をそれぞれ受賞して頭角を表した。

角川書店を率いた角川春樹氏から映画化を前提に「作家の証明となるようなものを」と依頼され、76年に西条八十の詩をモチーフに使った「人間の証明」を刊行。これまでに770万部のベストセラーになった。77年公開の松田優作さん主演の同名映画も、「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね」というフレーズが流行語になり、ジョー山中さんが歌った「Mama,Do you remember…」で始まるテーマ曲も含めて大ヒットした。77年の「野性の証明」も、翌78年に高倉健さんと薬師丸ひろ子共演の映画が公開されてヒットし、一大ブームとなった。

「棟居刑事」や「牛尾刑事・事件簿」などのシリーズものでも知られ、テレビドラマ化された作品も多い。

埼玉県熊谷市出身。終戦直前45年8月14日深夜から15日未明にかけての熊谷空襲を体験したことなどから、反戦を訴え続け、社会の不条理に対しても厳しい視線を注ぎ続けた。81年には、旧日本軍第731部隊による人体実験などを告発するノンフィクション「悪魔の飽食」を発表。翌年の「続・悪魔の飽食」とともに論議を呼び、大きな注目を集めた。

11年には「悪道」で吉川英治文学賞を受賞。晩年には老人性うつ病に苦しみ、21年にその闘病体験などをつづった「老いる意味」を刊行し、老後の生き方の意味を提言した。