ひとつの本棚に60人の店主ー。月額数千円で棚のひと区画を借りて「棚主」となり、好きな本を並べて販売する「シェア型書店」が広がっている。町の書店が減少傾向にある中、誰でも“小さな書店”が開けるとして、新しい書店の形に注目が集まっている。読書の秋、シェア型書店を開いた店主や棚主に話を聞いた。

7畳ほどの店内の棚には小説や児童書、料理本にビジネス本など、さまざまなジャンルの本が並ぶ。東京都台東区のシェア型書店「Books&Coffee 谷中TAKIBI」は7月にオープンした。店主の安藤哲也さんによると、細かく区切られた棚は60人がレンタルしており「棚主」として本を販売している。棚の空きを待ち、予約している人が10人ほどいるという。棚のレンタル料はサイズによって異なり、月額3000円~1万円。北海道や大阪など、全国から棚のひと区画を借りに来る人がいる。年齢も幅広く、小学生と母親が共同でレンタルしている棚もあり、人気漫画「呪術廻戦」の小説版や育児書が並んでいる。

安藤さんは、東京都文京区の往来堂書店の初代店長や楽天ブックスの事業部長を経て、書店がない「無書店地域」にまちの本屋の復活を後押しするNPO法人「ブックストア・ソリューション・ジャパン(BSJ)」を22年10月に発足した。書店開業を志す人へ、開店するまでのノウハウを伝える講座などを開いた。「今の時代、地方の子どもはふらっと本屋に行けない。本も高くなってフリマアプリで買っている。子どもが部活や塾の帰りに文学に出会って、知らない世界を知るとか。そういうことが起こりうるのが本屋の良いところです」と話した。安藤さんによると、人口約3000人の鳥取県江府町では、BSJの支援を受けた新しい書店が約10年ぶりに開かれるという。

「知らない人同士が集まって飲み始めたりするたき火のようなお店にしたい」。安藤さんのシェア型書店では、棚のネームカードをスマートフォンで読み込むと、棚主のSNSにつながる。シェア型書店について「本の『推し活』なんですよ。みんな自分のおすすめの本とか、読んで面白かったもの、モチベーションが上がった本とかを出している」。店では定期的に本の感想を語り合う「読書会」を開いており、読書家同士の交流の場にもなっている。【沢田直人】

◆シェア型書店 本棚のひと区画を借りて、持ち寄った本を販売する新しいスタイルの書店。全国に広がりつつあり「棚貸し書店」「共同型書店」などとも呼ばれる。棚のレンタル料は月額数千円程度。棚を借りた人はおすすめしたい本や不要になった本などを並べて販売する。古書、新古書が中心で値段は定価以下のものが多く、売り上げの数%分と手数料などが店側に入る。棚を借りた人は「一日店長」として店番をすることも。書店だけでなく、棚を有償で借りて無料で本の貸し出しをする「私設図書館」も増えてきている。

■西日暮里でも 棚主80人、店番もシェア

東京都荒川区のシェア型書店「西日暮里BOOK APARTMENT」は19年12月に開店。店主の田坂創一さん(32)によると、31センチ四方に区切られた本棚には80人の棚主がいる。ひと区画のレンタル料は月額4000円。棚主は共同で店番も担う。希望する時間を事前に予約し「一日店長」としてレジ打ちなど店を運営する。田坂さんは「西日暮里は乗り換えの駅の場所というイメージが強い。街づくりのきっかけになればと信じてシェア型の書店を始めた」と話した。その上で「『街から本屋がなくなっていくところをなんとかしたい』という人たちと一緒に活動できているのは目標達成できたのかなと思います」と笑顔を見せた。

新しく棚主になった40代の会社員女性に話を聞いた。映画や旅行が好きという女性は「いもづるトラベル」という書店名をつけた。値付け作業を行い、関連する作品のメモを添えた本を棚に並べた。女性は「普通の古本屋さんに手放しちゃうよりかは、次の誰かにつなげていけるかなと思って。自分が面白いと思った本を薦めたいですね」と晴れやかな表情を浮かべた。

■書店数は減少も坪数は増加傾向

町の書店が減少している。書店の店舗数などを調査している日本出版インフラセンター(東京都千代田区)によると、2004年度には全国に約2万店舗あった書店が、23年度8月までに約1万1000店舗にまで減少した。一方で、大型ショッピングセンター内の書店など、300坪以上の書店数は約10年間、横ばいの状態が続き、書店の平均坪数は増加傾向にある。担当者は「我々が持っているシェア型書店など独立系の書店のデータはまだ少ない。話題になり広がりつつあると思うので、来年度から積極的に情報を集めていきたい」と話した。