能登半島地震で甚大な被害があった石川県輪島市で漆塗りの加工業を営む升井克宗さん(65)は、倒壊した職場兼自宅で荷物の後処理に追われていた。

克宗さんは崩れ落ちる天井と床のわずかな隙間で、妻の佳美さん(63)と九死に一生を得た。避難所での生活を強いられることになったが、仕事復帰に向けて前を向く。

2階建て住宅の1階で、ゆったりとしていた克宗さんと佳美さんを激震が襲った。体験したことない揺れに2人は、こたつに頭を入れ、布団で体を覆った。克宗さんは「上からがたがた全部が落ちてきた。柱が(自分たちの所に)倒れてきたらどっちかは死んでいた」と話す。かがんだ状態で約15分、四方はふさがり上部に差し込んだわずかな光を頼りに、がれきを外して自力で脱出した。克宗さんは「2人とも無傷で。本当に奇跡です」と話した。

穏やかなはずの正月の景色が地震で一変した。自宅近くのビルは根元から倒れ、観光名所「朝市通り」一帯は火災に見舞われた。克宗さんは、つぶれた家の前で両親の助けを求める女性やレスキュー隊の横で「くそ!」と泣き叫ぶ男性を見た。克宗さんの25年来の友人も行方不明になっているという。「誰もこんなことになるなんて予想していなかった」。2人は徒歩圏内の河井小に避難している。佳美さんは「たくさんの物資や支援をいただいた。人のありがたみを感じている」と感謝した。

升井さん夫婦が営む「升井彩本乾漆」は輪島市の伝統産業「輪島塗」の技術を生かして、天然漆を重ねて加工したアクセサリーを製造販売する。店を改装し、今春には体験型サービスの展開を検討していたが計画は白紙に。克宗さんは輪島市での卸売り事業再開を目指し、倒壊した自宅から筆などの商売道具を回収した。その上で「観光客が戻ってきてくれるようになったらすぐに店の方もやる」と話した。【澤田直人】

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