将棋の藤井聡太叡王(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖=21)が同学年の伊藤匠(たくみ)七段(21)の挑戦を受ける、第9期叡王戦5番勝負第2局が20日、石川県加賀市「アパリゾート佳水郷」で行われ、先手の伊藤が藤井を破り、対戦成績を1勝1敗のタイに持ち込んだ。

藤井は昨年9月の王座戦5番勝負第2局からタイトル戦の連勝が「16」でストップ。故大山康晴15世名人のタイトル戦最多連勝記録「17」に並ぶことができなかった。伊藤は悲願の1勝を挙げた。第3局は5月2日、名古屋市の「名古屋東急ホテル」で行われる。

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対局室からは名湖「柴山潟」と「白山連峰」が一望できる。柴山潟は、白山から昇る朝日や日本海に沈む夕日を浴び、1日に7度、湖面の色を変えると言われる片山津温泉のシンボルだ。静寂の中、藤井が開始早々、変化球を投げた。

「作戦でした。やったことがなかったので、やってみたらどうかなと」。10手目に角を3段目に上がる「3三金型の角換わり」。年に数局ずつ出現するマイナーな戦型だ。公式戦438局目で初採用した伊藤の作戦を外す「新戦法」だった。想定内だったのか、伊藤にしっかりと対応された。

難解な中盤を経て、両者とも持ち時間の4時間を使い切って1分将棋となり、超ハイレベルな攻防戦となった。最終盤は相手の猛攻を必死に受け、逆転を狙ったが、届かなかった。

変化球は見事に打ち返された。「もう少し工夫が必要だった。3三金型の薄さが出るような展開になり、失敗しているかなと思っていた」と敗因を分析した。

16年10月に史上最年少の14歳2カ月でプロ入りから7年6カ月。最多の29連勝、17歳11カ月での最年少初タイトル…。将棋界の「最年少記録」「大記録」を次々と更新してきた。圧倒的な強さで勝つことで、歴史に埋もれていたレジェンドたちの「大記録」に再びスポットライトを当ててきた。

この黒星でタイトル戦の連勝は「16」でストップ。故大山康晴15世名人が1961年(昭36)~62年度に達成したタイトル戦最多連勝記録「17」に62年ぶりに並ぶことはできなかった。これまで大記録を更新するたびに「記録は意識しない」といった言葉を口にしてきたが、“大山超え”が途切れたことに「仕方がないことかなと思っています」と笑った。「次局は気を取り直して、しっかりと準備をしたい」。若き第一人者は「変化」しながら怒濤(どとう)の8冠防衛ロードに挑む。【松浦隆司】