伊藤雄二元調教師が17日、老衰のため亡くなった。85歳だった。19日に日本調教師会から発表された。日刊スポーツの競馬面ではコラム「雄二の流儀」で、G1を中心に馬券予想も掲載した。

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すべてに、こだわりのある人だった。

調教師だった頃、函館競馬の調教後「ちょっと行きましょう」と誘われた。車で1時間以上かけて連れていかれたのは、知る人ぞ知る郊外の豆腐店。驚くこちらをよそに「ここはね、水が違うんです」と笑った。わずか数百円の豆腐に労を惜しまなかった。

調教師としてこだわったのは、勝率だった。JRA賞の最高勝率調教師を7度、獲得。「ファンの人に一番、貢献できる数字ですから」が口癖だった。決して無理せず、万全の状態でなければ使わない。連闘、中1週もざらの北海道で担当馬が1度しかレースを走らず、厩務員に「開店休業だよ」と陰口をたたかれたこともしばしばだったが、意に介さなかった。

予想のこだわりは回収率だった。買い目を決めた後、必ず聞いてきた。「(馬券は)何点になりますかね」。的中しても収支がマイナスになる予想だと、決まって「(点数を)絞りましょう」と提案してきた。担当記者としては的中が最優先だが、譲らない。「(配当が)安くても、プラスになれば読者の皆さんに喜んでもらえるでしょう」。こだわりがあった。

コロナ禍もあり、最近はお会いすることができなかった。最後に電話で話したのはいつだったか。「孫がね」と話したやさしい声が忘れられない。ご冥福をお祈りします。【元中央競馬担当・鈴木良一】