オークス馬メジロドーベル(大久保洋)が4歳牝馬三冠の最終戦を制し、2冠を達成した。前半中団から徐々に進出し、直線で豪快に抜け出した。理想的な騎乗で力を引き出した吉田豊騎手(22)は、阪神3歳牝馬S、オークス(ともにメジロドーベル)に続きG1・3勝目。桜花賞馬キョウエイマーチ(栗東・野村)は直線入り口で先頭に立ったものの、メジロドーベルには完敗の2着だった。

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メジロドーベルの重心がグッと沈み、走りのリズムが変わった。残り250メートル。右手前から左手前へ。その瞬間、吉田は勝利を確信した。「さぁ、いくぞ」。左ステッキが合図だった。馬場の六分どころがビクトリーロード。残り100メートルでキョウエイマーチに並び、そして突き放す。最後は手綱から伝わるすごい感触を楽しみながら、余裕でゴールへ飛び込んだ。

オークスのような派手なガッツポーズはないが、人さし指と小指を立て2冠をアピールした吉田。前半は中団の内々で折り合いに専念、3角すぎから動き出した。「ゴチャついて脚を余すことだけはするな」。大久保洋吉師(52)の指示通り、直線は外へ持ち出し末脚を最大限引き出した。レース前に描いていた通りの騎乗ぶりだ。「直線で左手前へ替えた時はいけると思いました」と白い歯を見せた。

陣営は前走のオールカマー(1着)後に、坂路からWコースへ調教パターンを変えた。「かかり癖が出てきたし、手前の替え方が下手なので」という理由だが、体調面の維持など、かなりのリスクを背負う選択。勇気ある決断は、淀で花開いた。大久保洋師は「かなりの根拠がないと、なかなか(調教パターンを)変えられない。でも今日の競馬を見ると、効果はあったね」と会心の笑みを浮かべた。

吉田自身これが三つ目のG1勝ちになるが、1番人気にこたえたのは初めて。「前売りで単勝190円というのは知ってました。プレッシャー? この馬が一番強いですから」。重圧をも吹き飛ばしてしまうメジロドーベルの強さ。そして絶大な信頼関係。表彰式では関西ファンから「ユタカコール」が飛んだ。東のユタカが全国区として認められた証拠でもある。「まだまだですよ。少しでも近づきたい」と謙虚に語るが、女性ファンの人気も本家(武豊)に追いつく勢いだ。

メジロドーベルは、この勝利で最優秀4歳牝馬のタイトルを手中にした。今後は古馬一線級との対戦が待ち受けている。「年内あと一戦ぐらいは、と思っている。有馬記念? もちろん頭の中にありますよ」と大久保洋師。吉田は「手前も替えてくれたし、今のところ注文はありません」と言い切る。年度代表馬も夢ではなくなってきた。【水島晴之】

◆メジロドーベル▽父 メジロライアン▽母 メジロビューティー(パーソロン)▽牝・4歳▽馬主 メジロ商事(株)▽調教師 大久保洋吉(美浦)▽生産者 メジロ牧場(北海道伊達市)▽戦績 10戦7勝▽総収得賞金 4億2177万7000円▽主な勝ちクラ 96年阪神3歳牝馬S(G1)97年オークス(G1)オールカマー(G2)

(1997年10月20日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時