古豪優位の勢力図が1日にして入れ替わった。6番人気と評価が急落したサクセスブロッケン(牡4、栗東・藤原英)が肉体強化でレコードV。カジノドライヴと4歳ワンツーを決めた。最強7歳世代のカネヒキリは3着、ヴァーミリアンは6着に終わった。

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坂下の差を見て、サクセスブロッケンの藤原英師はあきらめかけた。馬なりで先頭をうかがうカジノドライヴは残り400メートルで2馬身前にいた。だが坂を上がってからの迫力が違った。内田の右ムチに呼応するように外から伸びてくる。中のカジノドライヴ、最内のカネヒキリを加えた3頭が鼻づらを並べての激戦。トレーナーが声にならない叫びを上げた瞬間、掲げられたジョッキーの右手が世代交代を告げた。1分34秒6のレコード。7歳2強のカネヒキリの8冠を阻止し、ヴァーミリアンは沈んだ。藤原英師は「まさか勝てるとは思わなかった。将来的にはと思っていたが、もう少し時間がかかると思っていたから。東京大賞典、川崎記念と負け続けて、古馬の壁は厚いと思っていたからね」と予想を覆す頑張りに舌を巻いた。

生まれつき両前脚が外向(つま先が外側を向いている)していた。地面を蹴る時の反動が大きく、故障につながりかねない。受け入れてくれる厩舎がなく、「なんとかなりませんか」とオーナーが声をかけたのが藤原英厩舎だった。強い調教を始めてすぐ、調教師ははずんだ声でオーナーに連絡した。「ブロッケン、すごいっすよ!」。外向のハンディをはね返すだけの後肢の強さに驚かされた。

デビューからダートで4連勝。ダービー18着の後、ジャパンダートダービーで統一G1を制覇したが古馬との戦いで力差を見せつけられた。JCダートで8着に敗れてからすぐに目標をフェブラリーSに切り替え、交流重賞でカネヒキリ、ヴァーミリアンに挑み地力強化を図った。地方の深い砂で筋力をアップさせる計算があった。トレセンではウッドコースで長距離を乗り込み心肺機能を高めた。

ここ一番でひと押しが利いた秘密はレース当日の朝にあった。担当の杉本助手が引き運動をするだけでなく、前日から泊まり込んだ藤原助手が騎乗して常歩(なみあし)をした。馬体を左右にひねらせながら、じっくりと乗り込んだ。返し馬で走らせると発汗しスイッチが入りすぎてしまうため、ゲートまで歩かせることが決まっていた。発走直前に体をほぐせない分、早朝に柔軟運動をさせてウオーミングアップを済ませた。このきめ細かなプランが2年連続勝率1位厩舎の真骨頂だ。

今後は宮崎の宮崎育成ファームに放牧に出される。次走は決まっていないが、秋には追われる立場。もちろん、王座防衛だけを見据える。【高橋悟史】

◆サクセスブロッケン▽父 シンボリクリスエス▽母 サクセスビューティ(サンデーサイレンス)▽牡4▽馬主 高嶋哲▽調教師 藤原英昭(栗東)▽生産者 谷川牧場(北海道浦河町)▽戦績 11戦6勝(中央7戦5勝、地方4戦1勝)▽総収得賞金 2億6648万円(中央1億5348万円、地方1億1300万円)▽主な勝ちクラ 08年ジャパンダートダービー(統一G1)

(2009年2月23日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時